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東京高等裁判所 平成4年(ネ)695号 判決 1993年6月24日

(東京事件関係)

控訴人・附帯被控訴人

(以下「第一審被告」という。)

日本道路公団

右代表者総裁

鈴木道雄

右訴訟代理人弁護士

井関浩

馬場正夫

右指定代理人

山田知司

外四名

被控訴人・附帯控訴人

(以下「東京第一事件第一審原告」という。)

やよい運送株式会社

右代表者代表取締役

田辺僖勝

東京第一事件第一審原告

隅田川運送株式会社

右代表者代表取締役

石山吉男

東京第一事件第一審原告

峯岸運送有限会社

右代表者代表取締役

峯岸松男

東京第一事件第一審原告

日発運輸株式会社

右代表者代表取締役

染葉恒雄

東京第一事件第一審原告

有限会社小碇運輸

右代表者代表取締役

小碇晴次

東京第一事件第一審原告

五十嵐運輸株式会社

右代表者代表取締役

五十嵐潔

東京第一事件第一審原告

有限会社富士中央運送

右代表者代表取締役

渡邉國雄

東京第一事件第一審原告

浜北トランスポート株式会社

(旧商号・浜北梱包株式会社)

右代表者代表取締役

小野市夫

東京第一事件第一審原告

幸伸運輸倉庫株式会社

右代表者代表取締役

萩原義久

東京第一事件第一審原告

協業組合浜松輸送センター

右代表者代表理事

松下輝久

東京第一事件第一審原告

日急株式会社

右代表者代表取締役

安藤克則

東京第一事件第一審原告

豊田陸運株式会社

右代表者代表取締役

小幡鋹伸

東京第一事件第一審原告

東洋陸運株式会社

右代表者代表取締役

稲垣茂

東京第一事件第一審原告

東礪運輸株式会社

右代表者代表取締役

今井司

東京第一事件第一審原告

愛知陸運株式会社

右代表者代表取締役

深津豊

東京第一事件第一審原告

株式会社ポッカライン

(組織変更前・有限会社迫田運輸)

右代表者代表取締役

福田利夫

東京第一事件第一審原告

株式会社柴田自動車

右代表者代表取締役

柴田昭信

東京第一事件第一審原告

刈谷通運株式会社

右代表者代表取締役

竹本千里

東京第一事件第一審原告

中部運輸株式会社

右代表者代表取締役

綱島彰

東京第一事件第一審原告

南勢運輸有限会社

右代表者代表取締役

山本松治

東京第一事件第一審原告

北勢運送株式会社

右代表者代表取締役

上田虎三

東京第一事件第一審原告

フットワークエクスプレス株式会社

(旧商号・日本運送株式会社)

右代表者代表取締役

大橋渡

東京第一事件第一審原告

有限会社山一運送

右代表者代表取締役

脇村邦彦

東京第一事件第一審原告

丸水運輸株式会社

右代表者代表取締役

岸本政晴

東京第一事件第一審原告

今津陸運株式会社

右代表者代表取締役

浅尾文昭

東京第一事件第一審原告

梅田ラインズ株式会社

(旧商号・大阪梅田運送株式会社)

右代表者代表取締役

築山善己

東京第一事件第一審原告

山野運輸倉庫株式会社

右代表者代表取締役

吉田圭一郎

東京第一事件第一審原告

丸松運送株式会社

右代表者代表取締役

松本顕次

東京第一事件第一審原告

山陽自動車運送株式会社

右代表者代表取締役

宮嵜恒彰

東京第一事件第一審原告

曽爾運送株式会社

右代表者代表取締役

西上正美

東京第一事件第一審原告

松茂運輸株式会社

右代表者代表取締役

佐川儀一

東京第一事件第一審原告

宝海運株式会社

右代表者代表取締役

綿谷敏仁

東京第一事件第一審原告

大川陸運株式会社

右代表者代表取締役

植村哲雄

東京第一事件第一審原告

高知通運株式会社

右代表者代表取締役

野村茂久

東京第一事件第一審原告

和気運輸有限会社

右代表者代表取締役

藤原きよ子

東京第一事件第一審原告

司運輸株式会社

右代表者代表取締役

牛嶋正一

東京第一事件第一審原告ら三六名訴訟代理人弁護士

北村一夫

久保田昭夫

有正二朗

大熊政一

鴨田哲郎

被控訴人(以下「東京第二事件第一審原告」という。)

山下金属株式会社

右代表者代表取締役

牛島興成

右訴訟代理人弁護士

田辺克彦

田辺信彦

田辺邦子

山田修司

右訴訟復代理人弁護士

伊藤ゆみ子

(静岡事件関係)

控訴人(第一審被告)

日本道路公団

右代表者総裁

鈴木道雄

右訴訟代理人弁護士

井関浩

馬場正夫

右指定代理人

山田知司

外四名

平成四年(ネ)第二九三号事件被控訴人

平成四年(ネ)第六九五号事件控訴人

(以下「静岡事件第一審原告」という。)

ナカミセ食品株式会社

右代表者代表取締役

橋ケ谷金善

静岡事件第一審原告

渥美仁一郎

静岡事件第一審原告

大石峯夫

静岡事件第一審原告

堂原勉

静岡事件第一審原告

高須吉郎

静岡事件第一審原告

知久富士雄

静岡事件第一審原告

吉永眞

静岡事件第一審原告

有限会社平和家具

右代表者代表取締役

兼子直久

静岡事件第一審原告

小野亮

静岡事件第一審原告

澤入和雄

静岡事件第一審原告

山口道晴

静岡事件第一審原告

柴田敏男

静岡事件第一審原告

株式会社石川鉄工所

右代表者代表取締役

石川宗七

静岡事件第一審原告

株式会社フクシマ

右代表者代表取締役

福嶋保

静岡事件第一審原告ら一四名訴訟代理人弁護士

小野森男

増田尭

菊池信廣

主文

一  東京事件及び静岡事件につき、第一審被告の控訴をいずれも棄却する。

二  東京事件原判決のうち東京第一事件第一審原告東礪運輸株式会社及び同丸水運輸株式会社に関する部分並びに静岡事件原判決のうち静岡事件第一審原告ナカミセ食品株式会社及び同吉永眞に関する部分を次のとおり変更する。

1  第一審被告は、東京第一事件第一審原告東礪運輸株式会社に対し、金四七〇万円及び内金一九〇万円に対する昭和五四年七月一一日から、内金二四〇万円に対する同年九月三〇日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  第一審被告は、東京第一事件第一審原告丸水運輸株式会社に対し、金二〇五七万二一四〇円及び内金一三二五万円に対する昭和五四年七月一一日から、内金五五二万二一四〇円に対する同年一二月一九日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  第一審被告は、静岡事件第一審原告ナカミセ食品株式会社に対し、金八〇万一九〇〇円及びこれに対する昭和五四年七月一二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4  第一審被告は、静岡事件第一審原告吉永眞に対し、金八一万四〇〇〇円及びこれに対する昭和五四年七月一二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

5  右各第一審原告らのその余の請求を棄却する。

三  前項記載の各第一審原告を除くその余の東京第一事件第一審原告らの附帯控訴及び静岡事件第一審原告らの控訴をいずれも棄却する。

四  訴訟費用中、第二項記載の各第一審原告と第一審被告との間で生じた費用は、第一、二審を通じて八分し、その一を当該第一審原告の、その余を第一審被告の各負担とし、その余の第一審原告らと第一審被告との間で当審において生じた費用は、第一審被告の控訴にかかるものは第一審被告の、東京第一事件第一審原告らの附帯控訴にかかるものは同第一審原告らの、静岡事件第一審原告らの控訴にかかるものは同第一審原告らの各負担とする。

五  本判決第二項1ないし4は、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた判決

〔東京事件について〕

一  第一審被告

1 東京事件原判決のうち第一審被告敗訴の部分を取り消す。

東京事件第一審原告らの請求を棄却する。

2 東京第一事件第一審原告らの附帯控訴を棄却する。

3 訴訟費用は、第一、二審とも東京事件第一審原告らの負担とする。

4 (民訴法一九八条二項に基づく原状回復等の申立て)

第一審被告に対し、東京第一事件第一審原告らは、それぞれ別紙目録(一)の個別支払総額欄記載の各金員及びこれに対する平成二年六月二五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、東京第二事件第一審原告は、同目録(二)の個別支払総額欄記載の金員及びこれに対する平成二年六月二七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  東京第一事件第一審原告ら

1 第一審被告の控訴を棄却する。

2 (附帯控訴)

東京事件原判決のうち東京第一事件第一審原告らに関する部分を次のとおり変更する。

第一審被告は、東京第一事件第一審原告らに対し、東京事件原判決別紙損害一覧表の各自の損害総合計額欄記載の各金員及びうち同表の弁護士費用を除く損害合計額欄記載の各金員に対する昭和五四年七月一一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は、第一、二審とも第一審被告の負担とする。

三  東京第二事件第一審原告

1 第一審被告の控訴を棄却する。

2 訴訟費用は第一審被告の負担とする。

〔静岡事件について〕

一  第一審被告

1 静岡事件原判決のうち第一審被告敗訴の部分を取り消す。

静岡事件第一審原告らの請求を棄却する。

2 静岡事件第一審原告らの控訴を棄却する。

3 訴訟費用は、第一、二審とも静岡事件第一審被告の負担とする。

4 (民訴法一九八条二項に基づく原状回復等の申立て)

静岡事件第一審原告らは、第一審被告に対し、それぞれ別紙目録(三)の個別支払総額欄記載の金員及びこれに対する平成四年三月一〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  静岡事件第一審原告ら

1 第一審被告の控訴を棄却する。

2 静岡事件原判決のうち静岡事件第一審原告らに関する部分を次のとおり変更する。

第一審被告は、静岡事件第一審原告らに対し、静岡事件原判決別紙請求金額一覧表の各自の合計金額欄記載の各金員及びこれに対する昭和五四年七月一二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は、第一、二審とも第一審被告の負担とする。

4 仮執行宣言

第二  当事者の主張

一  本案について

東京事件第一審原告らの主張並びにこれに対する第一審被告の認否及び主張は、東京事件原判決事実欄第二当事者の主張(同判決一六頁五行目から二〇六頁五行目まで)に記載のとおりであり(ただし、同判決九九頁五行目の「所用期間」を「所要期間」に、同頁五、六行目、一〇〇頁七行目及び一〇行目の各「再取得所用期間」をいずれも「再取得所要期間」に、一七五頁四行目の「午後六時四五分」を「午後七時四五分」にそれぞれ改める。)、静岡事件第一審原告らの主張並びにこれに対する第一審被告の認否及び主張は、静岡事件原判決事実欄第二当事者の主張(同判決四枚目裏二行目から九二枚目裏八行目まで)に記載のとおりである(ただし、同判決二二枚目表三行目の「不適確」を「不的確」に改める。)。

第一審被告は、当審において次のとおり主張を補足し、第一審原告らは、これを争った。

1  共同不法行為の場合における責任の限定について

仮に本件トンネルの設置管理に瑕疵が認められるとしても、本件延焼火災は、まず本件追突事故により車両火災が発生し、大量の可燃物を積載する車両に燃え移り、八〇〇度ないし一〇〇〇度という高温を発したために、いわゆるフラッシュオーバー現象を引き起こし、約九〇メートル離れた後続車両に飛火して発生したものであり、本件追突事故関係者らの過失が損害発生に寄与している度合が極めて大きく、本件追突事故関係者ら又は後続車両の関係者らに期待される初期消火活動等がなされなかったことをもあわせ考えると、損害の発生に対する右瑕疵の寄与度が本件追突事故関係者らの過失のそれに比して大きいとはいえない。そして、衡平の観点からすると、共同不法行為が成立する場合においては、各不法行為者が発生した損害の全額について一律に不真正連帯債務を負うとするのではなく、その寄与度の割合に応じた責任を負うにとどまると解するのが相当であるから、本件においても第一審被告の責任は軽減されるべきである。

2  危険への接近について

本件においては、多くの後続車両が事故発生を知らせる可変標示板の表示を見ていながら車間距離も十分とらず、続々と本件トンネルに進入したと推定されることから、被害者にも過失(危険への接近)があり、損害の発生に寄与しているといわざるを得ない。少なくとも東京第一事件第一審原告五十嵐運輸、同刈谷通運、同東礪運輸、同幸伸運輸倉庫、同東洋陸運、同愛知陸運、同司運輸(二車両)、静岡事件第一審原告ナカミセ食品、同堂原勉、同渥美仁一郎については、右事情が明らかであるから、これらの第一審原告に対する第一審被告の損害賠償責任は減免されるべきである。

二  民訴法一九八条二項に基づく原状回復等の申立てについて

第一審被告は、東京事件原判決及び静岡事件原判決の各仮執行宣言に基づき、東京第一事件第一審原告らに対して平成二年六月二五日に、東京第二事件第一審原告に対して同月二七日に、静岡事件第一審原告らに対して平成四年三月一〇日に、それぞれ別紙目録(一)、(二)、(三)の個別支払総額欄記載の各金員を支払った。

よって、民訴法一九八条二項に基づき、第一審被告の本件控訴が認容されないことを解除条件として、右支払金の返還及び損害賠償を求める。

第三  証拠関係<省略>

理由

以下の理由第一及び第二の認定判断は、若干の部分を一部訂正するほか、東京事件原判決の該当部分の説示とほぼ同文であり、また、理由第三の認定判断は、主文において変更した第一審原告らに関する部分を一部訂正するほか、東京事件原判決及び静岡事件原判決の各該当部分の説示とほぼ同文である。

なお、東京事件と静岡事件とでは、損害の各論部分を除いて証拠関係が共通するので、特に断らない限り、東京事件の証拠によって表示する。

第一事実関係について

当事者間に争いのない事実、<書証番号略>、原審(東京)証人原田博介、同(東京・静岡)山田暉夫、同(東京・静岡)白石尚夫、同(東京)杉山洋太郎、同(東京)太田国雄、同(東京)森竹釗、同(東京)小園健次、同(東京)新居一典、原審(東京・静岡)及び当審証人梅田友久、当審証人三宅観孝、取下前原審(東京)被告梶浦豊治本人、原審(静岡)における静岡事件第一審原告澤入和雄本人の各供述、原審(東京・静岡)における各検証の結果並びに弁論の全趣旨によって認められる事実は、以下のとおりである。

一本件事故の発生と当事者

昭和五四年七月一一日、本件トンネル内において、大型貨物自動車四台及び普通乗用自動車二台が関係する追突事故が発生し、車両火災となって右車両六台が焼毀したほか、さらに本件トンネル内に停車していた後続車両一六七台が焼毀した。

東京事件及び静岡事件の第一審原告らは、いずれも後記のとおりその所有にかかる車両が本件事故に遭遇して焼毀し被害を受けた者である。

第一審被告は、日本道路公団法により設立され、その通行又は利用について料金を徴収することができる道路の新設、改築、維持、修繕その他の管理を行うこと等の業務を行う国賠法二条一項所定の公共団体であり、右業務として本件事故当時東名高速道路及び同道路と一体をなしている本件トンネルを設置し管理していた。

二本件トンネルの設置状況

1  東名高速道路は、東京都世田谷区を起点(以下「東京起点」という。)とし、神奈川県及び静岡県の両県を経て愛知県小牧市において名神高速道路と接続する全長346.7キロメートルの高速道路であり、昭和四三年四月二五日に部分的に供用が開始され、昭和四四年五月二六日に全線の供用が開始された。

2  日本坂トンネルは、昭和四四年に東名高速道路の静岡インターチェンジと焼津インターチェンジとの間の静岡市大字小坂字崩脇地内と焼津市大字野秋字鬼沢地内との間にかけて設置された上下線分離方式のトンネルであり、上り線用のトンネルの長さが二〇〇五メートルで、下り線用の本件トンネルの長さが二〇四五メートルであった。本件トンネル内の道路は、幅員各3.6メートルの走行車線及び追越車線と路肩各0.75メートルから構成されて幅員8.70メートルであり、平場(トンネル外の場所)と異なり路側帯は設けられていなかった。本件トンネルの位置図、横断図及び縦断図は、東京事件原判決別紙図面1ないし5(以下に表示する別紙図面は、すべて東京事件原判決のものである。)のとおりであった。なお、本件トンネルの通行に関して危険物積載禁止等の通行規制はなかった。

静岡インターチェンジは東名高速道路の一六二キロポスト(キロポストとは、東名高速道路の東京起点からの距離を示す表示である。)付近にあり、同インターチェンジから焼津インターチェンジまでの間は約11.8キロメートルであり、東名高速道路下り線の右区間内には下り線小坂トンネル、本件トンネル及び日本坂パーキングエリアが設置されており、静岡インターチェンジから下り線小坂トンネルの入口(以下「小坂トンネル東坑口」という。)までの間が約五三五〇メートル、同トンネルの長さが二六八メートル、同トンネルの出口(以下「小坂トンネル西坑口」という。)から本件トンネルの東坑口までの間が約五七メートル、本件トンネル西坑口から焼津インターチェンジまでの間が約四〇八〇メートルであり、本件トンネル西坑口と焼津インターチェンジとの間に日本坂パーキングエリアが設置されていた。

3  東名高速道路の設計速度は区間によって異なっており、本件トンネルを含む静岡インターチェンジと焼津インターチェンジとの間の区間の設計速度は時速一〇〇キロメートルであった。

4  本件トンネルには、別紙図面5のとおり東坑口から約六三三メートルの区間に上り勾配2.36パーセント、そこから西坑口までの約一四一二メートルの区間に下り勾配2.5パーセントの勾配が付されていた。右各勾配は、縦断線形の設計手法上の数値であり、実際のトンネル内道路面の標高差から計算した実質上の平均勾配は上り勾配約0.6パーセントで下り勾配約1.6パーセントであった。

本件トンネルの内部構造は、別紙図面4及び6のとおりであり、コンクリートで巻き立て、不燃材である石綿セメント板で内装し、天井板も不燃材である軽量気泡コンクリートを使用した不燃構造となっていた。

三本件トンネルの防災設備

第一審被告は、トンネル内における火災事故等に対応するため、以下の防災設備を別紙図面6のとおり本件トンネル内に設置していた。なお、ラジオ再放送設備は、昭和五四年度予算で設置される予定であったが、本件事故当時にはまだ設置されていなかった。

1  火災感知器(火災検知器ともいう。)

本件トンネルには、その両側壁面に火災感知器が一二メートル間隔で向い合わせにそれぞれ一七二個合計三四四個設置されていた。右火災感知器は、FDA23―SN(定輻射式)輻射形感知器で、火災が発生したときに火炎からの赤外域輻射エネルギーを自動的に感知するもので、監視範囲は受光部の正面より左右各々角度六〇度、幅六メートルかつ半径一〇メートルの範囲内であり、右監視範囲内において一メートル四方の火皿に四リットル以上のガソリンを入れて燃焼させた場合に相当する火災を三〇秒以内に発見する感度を有していた。しかし、車両の下部で発火した場合のように火炎が遮られた状態では感知しなかった。

火災感知器が火炎を感知すると、その位置がコントロール室の操作卓に表示され、ベルが鳴って火災の発生を知らせるようになっていた。

トンネル出入口部には太陽光等の影響により誤作動又は失報しないようにFDF23―SN(ちらつき式)輻射形感知器が設置されていた。

2  手動通報機

手動通報機は、追越車線側壁面の地上1.5メートルに四八メートル間隔で消火栓と同じ場所に四二個設置されており、トンネル内で車両火災事故等が発生したときに、事故当事者又は発見者が通報機のフレキシガラスを押し破って押釦を押し、その発生をコントロール室に通報するためのものであった。

3  非常電話

非常電話は、走行車線側壁面に約二〇〇メートル間隔で一二個設置されており、トンネル内で車両火災事故等が発生したときに、事故当事者又は発見者がその発生を管制室に連絡するための専用電話であった。そして、「非常電話」と書かれた表示灯とともに設けられ、東坑口に最も近い位置の非常電話を一番とし西坑口に向けて順次一二番までの番号が付されて特定され、各非常電話には例えば「日本坂1」というようにその設置位置を特定するための表示がなされており、受話器を取り上げると管制室と通話できる仕組みとなっていた。

4  ITV

日本坂トンネルには、トンネル内の状況を監視するため、追越車線側壁面に約二〇〇メートル間隔で設置された一一台のテレビカメラとコントロール室に設置された三台のモニターテレビによって構成されているITVが設置されていた。

テレビカメラは、本件トンネル東坑口に進入する車両の状況を監視するために本件トンネル外に設置されたテレビカメラを一番とし、西坑口に向けて順次一一番までの番号が付されて特定されており、コントロール室に設置された三台のモニターテレビは白黒画面で、上り線及び下り線の専用モニターテレビが一台ずつあり、残り一台は上下線のどちらにも切り換えられるようになっていた。

トンネル内に設置されたテレビカメラは、TL―4B型で全シリコントランジスタを使用し、自動化されかつ低照度用として設計されたものであり、被写体照度は標準一〇ルクスないし一〇万ルクス、自動感度調整は一〇〇〇対一以上(照度比)、水平解像力は低照度用のとき四〇〇本以上、高照度用のとき五〇〇本以上、使用レンズは焦点距離五〇ミリメートルでF1.4であったが、モニターテレビが余熱式のものではなかったため、スイッチを入れてから画像が出るまでには約四〇秒かかった。この画像が出るまでの時間につき、原審証人白石尚夫及び同山田暉夫は約二〇秒と供述しているが、右各供述は、日本坂トンネルの防災設備の保守担当者で実験結果に基づいて約四〇秒要したとする原審証人杉山洋太郎の供述と対比して採用できない。もっとも、東京事件原判決後に作成された右杉山の陳述書(<書証番号略>)中には、ITVモニターのスイッチを入れてから画像が出てカメラを切り換えて火点を確認するまでの所要時間が約四〇秒であり、原審の証言の際には勘違いした旨の供述部分があるけれども、その際には第一審被告代理人からスイッチを入れてから画像が出るまでの時間についての質問を受けたのに対し、当初一分と述べ、その後に約四〇秒と訂正して供述しているものであり、そこでは質問の趣旨を明確に認識して訂正供述しているものであって勘違いがあったとは認め難く、右供述部分は採用できない。また、静岡事件<書証番号略>(株式会社東芝日野工場通信システム技術第五部部長作成の「東名日本坂TNカメラ、モニター立上がり時間について」と題する書面)には、平成四年五月九日、本件ITVと同じモニター、撮像管を使用してスイッチを入れてから画像が出るまでの時間を測定した結果、一二秒ないし一五秒にすぎなかった旨の記載があるけれども、右の所要時間については原審段階から問題点のひとつとされ、かつ、右書証のような実測結果を提出することは容易であった(他の事柄については、同種の実験結果が原審段階から提出されている。)にもかかわらず、右書証は当審の最終段階に至って提出されたことや、前記証人杉山の供述内容等に照らすと、右記載内容もたやすく採用することができない。

なお、ITVの運用状況は、後記のとおり、常に画像を出して監視する常時監視ではなく、事故等の通報を受けてからスイッチを入れて画像を出すという方法がとられており、また、ITVと火災感知器等の通報設備とは連動していなかったため、係員が手動で順次カメラを切り換えて事故発生地点を探していかなければならなかった。

5  消火栓

消火栓は、追越車線側壁面に四八メートル間隔で四二個設置されており、トンネル内で発生した火災を主として事故当事者又は発見者の操作により初期消火又は制圧するための設備で、長さ三〇メートルのホースを装備したホースリール式であった。

ホースの口径は内径三二ミリメートル、外径44.5ミリメートルであり、ノズルからの放水はノズルの先端を左又は右に回すことにより棒状又は噴霧状で行うことができ、放水量はいずれも毎分一三〇リットル以上で、圧力は一平方センチメートル当たり三キログラム以上であった。有効射程は棒状で水平一四メートル以上、噴霧状の放水の展開角度は四五度以上であり、ホースはゴムホースでリールに巻いてあったため、放水しながら自由に火元に近づいて消火することができた。また、消火ポンプが起動すると、格納箱の上にある赤色灯が点滅するようになっていた。

放水のためには、現場において、格納箱の内部にある消火ポンプの起動釦を押して消火ポンプを起動させてから格納箱の内部の右上に設置されているハンドルを手前に倒して消火栓の開閉弁を開く操作により放水がなされることになっていたが、単にハンドルを手前に倒すだけでもハンドルに連結されているリミットスイッチの働きで消火ポンプが起動し放水されることになっていた。しかし、本件事故当時は、現場において右のような操作がなされても、コントロール室においてITVによって火災発生を確認してから消火ポンプの鎖錠を解放しない限り消火ポンプが作動せず放水しない仕組みとなっていた。

6  消火器

消火器は、追越車線側壁面に四八メートル間隔で消火栓と同じ場所に二本ずつ合計八四本設置されており、そのトンネル内で発生した火災を主として事故当事者又は発見者の操作により初期消火又は制圧する目的で設けられたものであった。

消火器は、消火栓と同一の格納箱の別の部分に格納されており、消火栓の観音開きの左側の扉が開かれると丁度その裏側に消火器が位置する関係にあり、その種類は国家検定に合格した六キログラムABC粉末消火器で、その機能は、初期先端到達距離一〇メートル、有効放射距離四メートルないし八メートル、薬剤散布幅約三メートル、有効放射時間約二〇秒、耐圧は一平方センチメートル当たり三〇キログラムであった。

7  給水栓

給水栓は東西両坑口にそれぞれ一個設けられており、トンネル内で発生した火災を消火又は制圧し消防活動を強化するための設備であり、主として公設消防隊の利用に供するためのものであった。

給水栓の本体は口径六五ミリメートルの単口地上型であり、右口径は公設消防隊が使用するホースの口径と合致するものであり、その給水能力は毎分四〇〇リットル以上であった。

8  水噴霧装置

水噴霧装置は、水を噴霧状に放射して火勢を抑制又は消火しあるいは火熱からトンネル施設等を冷却保護し、火災の延焼を防止するための設備である(ただし、ガソリン火災を水噴霧のみで完全消火することは不可能である。)。これによる放水は、火点の一区画三六メートルの範囲で一斉に行われる仕組みであり、必要に応じてそれに隣接するもう一区画三六メートルも放水可能となっていたから、合計二区画七二メートルで一斉放水ができることとなっていた。水を放射するスプレーヘッドは両側壁面ボード部に四メートル間隔で一〇二四個設けられ、一区画は一八個(追越車線側壁面及び走行車線側壁面に各九個)で構成されていた。その放射能力は毎分九五リットル以上、放水圧は一平方センチメートル当たり三キログラム以上であった。

水噴霧装置は、機械的には、火災感知器と連動して作動する仕組みとなっており、火災感知器が感知すると同時に放水する仕組みとなっていた。しかし、火災感知器は西日の太陽光線や自動車の前照灯の照明に対しても感知することがあったため、連動する仕組みを改め、本件事故当時は、コントロール室の係員がITVによって火災発生を確認してから水噴霧装置の鎖錠を解放して放水するようになっていた。

9  水槽及びポンプ

消火栓、屋外給水栓及び水噴霧装置に加圧送水するため、東坑口付近に容量一七〇立方メートルの主水槽、その補充用として容量五〇立方メートルの受水槽が設置され、その他に平常時給水管に水を充填しておくための容量3.5立方メートルの呼水槽が設置されており、主水槽用として消火ポンプ、受水槽用として取水ポンプ、呼水槽用として呼水ポンプがそれぞれ設置されていた。消火ポンプの送水能力は、毎分二五〇〇リットルであり、水槽及びポンプの配置・配管は別紙図面7のとおりであった。

10  可変標示板

トンネル内で発生した車両火災事故等に際し、走行車に対し速やかに警告して事故の拡大を防止するため、本件トンネルの東坑口から東京寄り約五三五メートルの地点(小坂トンネル東坑口から東京寄り約二一〇メートルの地点)の追越車線側に本件可変標示板が設置されていた。

本件可変標示板は、縦1.65メートル、横2.51メートルの標示板が二本の支柱により支えられ、その下端が路面から2.00メートルの位置に設置されており、標示部は一文字の大きさが縦0.45メートル、横0.39メートルのものが標示板の上段に横に四個、下段に横に二個配置され、電光式の文字が表示され、火災の際には上段に「進入禁止」、下段に「火災」と表示されるようになっていた。この表示操作は、コントロール室の係員がITVによって火災の確認をしてから遠方監視制御で行っていた。

本件可変標示板の上部には、縦0.45メートル、横1.30メートルの中に直径0.30メートルの点滅灯が三個配置され、三個の点滅灯のうち両側の二個は赤色で中央の一個が黄色であり、進入禁止の表示が点灯されると同時に両側の赤色灯が点滅する仕組みとなっていた。

本件可変標示板の下部には、これと連続してトンネル名及びその長さを表示するために「小坂トンネル」「長さ268m」と記載された表示板が付けられていた。

本件可変標示板の上部、点滅灯の左側にサイレンが設置されていたが、付近住民から吹鳴するとうるさいとの苦情があり、本件事故当時は吹鳴しないようにされていた。なお、本件事故当時、本件トンネル内には標示板はなかった。

11  換気設備

トンネル内の換気用として東換気塔及び西換気塔にそれぞれ六台の送風機が設置されており、そのうち各三台が本件トンネル用のものであった。右送風機は、平常時は送風用として使用され、トンネル外の空気をトンネル内の天井板の上部空間から天井板に四メートル間隔に設けた送風穴を通して車道に送り出し、車道内の空気の浄化を図っていたが、火災が発生すると、逆転させて車道内の煙を送風穴から吸い取り、天井板上部の空間を通してトンネル外に排煙するようになっていた。右送風機の送風能力は毎秒五二八立方メートル以上であり、排煙能力は送風能力の六〇パーセント以上であった。

12  非常通路

トンネル内で発生した火災等に際し、トンネル内の人を避難させるため約五〇〇メートル間隔に三箇所上下線の連絡通路が設けられていた。そして、連絡通路の位置を表示するため、「非常通路」の内照式表示板がその上部に設けられていた。

13  電気配線

本件トンネル内の防災設備を制御する電気の送電は、別紙図面6記載の電らん管を通り各防災設備に立ち上がるケーブル(ITV及び照明設備を除くその他の防災設備)ないし本件トンネル内の内装板の内部にあるトンネル本体の天井(ITV)や壁面(照明設備)を通るケーブルを伝って行われていたが、右ケーブルは耐火性のものではなく、その耐熱能力は、耐火炉の温度を徐々に上げ、ケーブルの損傷する温度と時間を測定する方法によると、加熱後六分三〇秒、耐火炉の温度が六〇〇度を超えた時点で被膜が垂れはじめ、加熱後七分三〇秒、耐火炉の温度が六三五度となった時点でケーブルが四一一度となって発火し、加熱後九分、耐火炉の温度が六九〇度となった時点でケーブルが四八五度となり、絶縁抵抗がなくなるというものであった。

四防災設備の管理・運用体制

1  管制室

(一) 担当職務

管制室は、神奈川県川崎市の第一審被告の東京第一管理局内にあり、東名高速道路の東京起点から三ヶ日インターチェンジまでの約251.7キロメートルの範囲を管轄し、担当職務は、右範囲内の非常電話、指令電話、業務電話(消防用電話)、移動無線及び一般加入電話により交通事故、火災事故及び車両故障等(以下「事故等」という。)の交通に影響を及ぼす情報を収集し、必要な処理がなされるようにその情報を警察署、消防署、管理事務所及びインターチェンジの料金所等に提供し、また、交通情報として一般利用者に提供することであった。これは、車両が高速度で走行するという高速道路の特殊性のため、一旦事故が発生すると交通に影響を及ぼす範囲が広く、広範囲で統一的な対応策が要求されることから、事故等の情報を一か所に集めてその状況を的確に把握して、関係諸機関の協力を得て効果的な対応策をとろうとする目的によるものであった。

警察も、管制室に警察官を交替勤務で常駐させ(以下「管理室」という。)、第一審被告が受信した非常電話の転送を受けたり、自ら収集した情報に基づいて必要な指示・指令等を発していた。

(二) 物的設備

管制室には、右の職務を遂行するため、①東名高速道路上に平場は約一キロメートル毎に、トンネル内は約二〇〇メートル毎に設置された非常電話からの通報を受けるための非常電話が二台(ただし、一台に四回線を組み込んでいた。)、②管轄内の警察、管理事務所及びコントロール室、料金所の関係事務所との間の直通電話である指令電話が四台、③管轄内の一八の消防本部へ通報するための専用電話である業務電話(消防用電話)が一台、④道路管理用の巡回車等と通信するための四〇〇メガヘルツの無線である移動無線が四台、⑤一般加入電話の回線及び第一審被告専用の回線を組み込んだ電話(以下「一般加入電話」という。)が二台、⑥非常電話の通話内容を通話者以外の人でも聞くことができる非常電話モニター、⑦通報された非常電話の位置を表示するためのグラフィックパネル及びその操作卓等が設置されていた。管理室には転送された非常電話を受け取るための受付電話及び警察無線が設置されていたほか、管理室の警察官は前記指令電話及び移動無線の各二台を使用することがあった。

しかし、管制室には、日本坂トンネル内の防災設備の稼働状況を直接知る設備はなく、指令電話を利用するなどしてコントロール室から情報を得て把握する方法しかなかった。

(三) 人的配置

管制室の室員は、室長一名、助役六名、通信管理長五名、通信員六名及び事務員二名であり、午前八時五〇分から午後五時二〇分までの日勤と午後五時五分から翌日の午前九時五分までの夜勤との二交替制で勤務し、二四時間対応していた。日勤の場合は四名ないし五名が勤務し、夜勤の場合は助役、通信管理長及び通信員の各一名が一組になって勤務していた。管理室には三名の警察官が交替で勤務していた。

(四) 非常電話通報の処理

通行者らが事故等の発生を非常電話で通報する場合、受話器を上げると管制室内の非常電話の呼出音が鳴り、一キロポスト毎にブロック表示されて上下線に区別されたグラフィックパネルの当該ブロックに乳白色の照明が点灯し、通話が開始されると右照明が点滅するようになっていた。また、平場とトンネル内とは回路が異なっていたため、平場の非常電話を上げた場合には二個、トンネル内の非常電話を上げた場合には一個それぞれ小さな赤い照明が乳白色の照明の中に点灯するようになっていた。そして、係員がグラフィックパネル操作卓のスイッチを押すと当該ブロックに赤い照明が点灯した。右のような仕組みになっていたため、平場の場合には通報に使用している非常電話の位置を通報者に聞かなくとも特定することができたが、トンネル内の場合には非常電話が約二〇〇メートル毎に設置されていたため、どの範囲内の非常電話を使用しているかは特定できても、どの非常電話を使用しているかは通報者に聞かないとわからなかった。

通報を受信した係員は、通報者からまず当該非常電話の番号を、次いで事故等の内容を聞き取ることになっていたが、その内容が交通事故又は火災事故等のように警察の関与が必要な場合には、概略等を聞き取ってすぐに管理室の受付電話に転送していた。転送した場合でも非常電話モニターのスイッチを押しておけば、その通話内容を管制室係員も聞くことができた。火災事故又は救急事故の場合には、係員が当該事故地点を管轄する消防署へ業務電話で通報し、消防車又は救急車の出動を要請していた。さらに、火災事故の場合には、料金所に連絡して情報板の点灯を依頼し、管理事務所に連絡し、関係する管理事務所には現場へ臨場するように要請していた。これに対して、警察の関与が必要とされない場合には、係員がその処理を担当する機関に連絡していた。

そして、非常電話については、通報を受けた係員がその都度受信内容を記載した非常電話受信表を作成する扱いとなっていたが、特に異常事態が発生して緊急処理をした場合には、係員がその都度そのまま記載するのではなく、それぞれがメモしたものに基づいて、後刻それをまとめたものを緊急通信処理表に記載する扱いとなっていた。

(五) 火災・救急事故の通報先

東京第一管理局が管理する東京インターチェンジから三ヶ日インターチェンジまでの間においては、各インターチェンジ間の行政区域が複数にまたがる関係で、消防・救急業務について関係する各市町村間で東名高速道路の供用開始に前後して消防相互応援協定が締結された。これらの協定は、行政区域とは関係なく、上り線については一方の消防本部が、下り線については他方の消防本部が担当するという上下線方式を採用していた。静岡インターチェンジと焼津インターチェンジ間についても、その行政区域が静岡市と焼津市にまたがっている関係上、それぞれの区域の消防を担当する静岡市及び焼津市は右区間における消防相互応援に関する協定を昭和四四年一月三〇日に締結し、同日付けの右協定に基づく覚書を両市の消防長間で交換し、同年二月二日から実施したが、右協定及び覚書によると、消防の出場隊の担当区域について上り線を焼津消防、下り線を静岡消防が担当するのを原則とするが、事故の状況により相互に応援しあうものとし、担当区域外の事故を覚知し出場したときは、直ちにその状況を相互に通報するものとされていた。

管制室は、右協定及び覚書の通知を受けており、それらの原則に形式的に従う執務体制をとっており、静岡インターチェンジと焼津インターチェンジ間の東名高速道路下り線において火災、救急事故が発生したときには、それがトンネル内であるか外であるかを問わず、静岡消防だけに通報して援助を求める取扱をしており、火災、救急事故の状況及び現場の交通渋滞の状況に応じて、臨機に最寄りの焼津消防に対してその詳細な情報を積極的に通報したり、あるいは援助を求めるような取扱をしていなかった。

2  コントロール室

(一) 担当職務

コントロール室は、別紙図面2記載のとおり日本坂トンネルの東坑口から約5.6キロメートル東にある静岡市長岡二三五番の一所在の静岡管理事務所にあり、遠方監視制御システムにより同事務所管内の東名高速道路清水インターチェンジと菊川インターチェンジとの間約54.05キロメートルにおける情報収集及び情報提供を機械的に行うとともに、その間に設置された小坂トンネル及び日本坂トンネルのトンネル防災設備を遠隔操作によって作動させる等の業務を行っていた。

なお、消防等の他機関との連絡業務は、管制室が一元的に行い、コントロール室が独自にはしない取扱となっていた。

(二) 物的設備

右の業務を行うために、コントロール室にはグラフィックパネル及び遠方監視制御装置の操作卓が設置されていた。

グラフィックパネルの状況は次のようなものであった。グラフィックパネルの中央部に左右にかけて東名高速道路の静岡インターチェンジ手前から菊川インターチェンジの先までの路線図があり、右路線図に対応して右から順に静岡インターチェンジ、小坂トンネル、日本坂トンネル(東)、日本坂トンネル(西)、焼津インターチェンジ、吉田インターチェンジ、牧の原サービスエリア及び菊川インターチェンジという順番で各種計器及び表示灯が区分され、かつ、各種表示灯については上り線については路線図の上部に、下り線については路線図の下部に設置されていた。また、グラフィックパネルの最も右側にITVモニターが三台縦に配置されており、上から順に上り線日本坂トンネル専用、上り線及び下り線共用、下り線専用となっていた。

操作卓は、グラフィックパネルに対応して操作スイッチが配置されており、右からITV、静岡インターチェンジ、小坂トンネル、日本坂トンネル(東)、日本坂トンネル(西)、焼津インターチェンジ、吉田インターチェンジ、牧の原サービスエリア及び菊川インターチェンジについての操作スイッチ及び表示灯が区画されて配置されていた。なお、東西換気塔の火災受信盤は、コントロール室の遠方監視盤と連結しており、トンネル防災設備の作動操作はコントロール室から遠方監視制御装置の操作卓によって行っていた。

防災設備の作動状況は、コントロール室のグラフィックパネルの表示灯が点灯することによって感知する仕組みとなっていたが、作動している個々の機器又は区間がすべて表示されるわけではなく、火災感知器及び水噴霧装置の作動状況については、本件トンネル内で五〇〇メートルごと四ブロックに分かれて表示されることになっていたのみであるから、作動している機器や区間の正確な位置は、その表示のみではわからない仕組みであった。

また、管制室や換気塔に連絡するための業務上の直通電話(指令電話)が備え付けられていたが、他機関に対し、直接連絡する無線や直通電話等の特別な装置はなかった。

(三) 人的配置

コントロール室の室員は合計九名おり、午前八時五〇分から午後五時二〇分までの日勤と午後五時五分から翌日の午前九時五分までの夜勤との二交替制で、常時二名が勤務して二四時間管理を行っていた。

(四) 火災発生時に係員が行う操作状況

日本坂トンネル内で火災が発生した場合、トンネル内の火災感知器が火災を感知すると、その信号は、換気塔に設置してある火災受信盤を経由し、伝送装置を経てコントロール室に送られ、グラフィックパネルの火災表示灯を点滅させるとともに警報ベルを鳴らすようになっていたが、右通報を受けたコントロール室の係員は、①ITVによる火災発生の確認、②可変標示板への表示、③消火ポンプ運転の鎖錠の解放、④水噴霧装置の鎖錠の解放、⑤送風機の逆転、⑥全照明の点灯という順序で操作卓の操作を行うことになっていた。その操作の状況は次のとおりであった。①火災表示灯が点滅し、警報ベルが鳴ると、コントロール室の係員は、操作卓のITVスイッチを入れ、カメラを切り替えてモニターで火災発生の確認作業をする。②火災発生を確認すると、操作卓のスイッチを操作して可変標示板に「進入禁止」「火災」を表示し、赤色燈を点滅させ、その表示及び点滅があったことをグラフィックパネルで確認する。③次に、操作卓の消火ポンプの鎖錠を解いてその運転を開始させると、ポンプ室からポンプ運転信号が返ってきてグラフィックパネル内のポンプ運転表示が点灯するようになっていたので、その点灯を確認する。なお、ポンプ運転が開始されるとトンネル内の消火器格納箱上部に設置されている赤色灯が一斉に点滅し、放水が可能な状態になる。④それから、操作卓の水噴霧装置の鎖錠を解いて自動弁を解放させ、水噴霧装置による放水を開始させる。放水が開始されると、換気塔の火災受信盤を経てグラフィックパネル内の水噴霧表示灯を点灯させるから、その点灯を確認する。⑤さらに、操作卓の操作により東西両換気塔の送風機を逆転させ、逆転したことをグラフィックパネルの逆転の表示の点灯により確認する。⑥最後に、操作卓の操作によりトンネル内の全照明を点灯させ、点灯したことをグラフィックパネルにより確認する。そして、これらの一連の操作をするとともに管制室に火災の発生を指令電話で通報することになっていた。

3  換気塔及びポンプ室

(一) 物的設備

上り線日本坂トンネル東坑口に東換気塔が、本件トンネル西坑口と上り線日本坂トンネル西坑口との間に西換気塔が設置され、その位置関係は別紙図面3のとおりであり、東西両換気塔には火災受信盤及び送風機が設置されていた。

火災受信盤は、トンネル内に設置された火災感知器、手動通報機等からの信号を受け、火災が発生した地区の表示灯と火災報知灯を点灯し、ベルを鳴らして火災の警報を発報し、水噴霧装置の自動弁の解放、消火ポンプの起動等の一次信号を供給し、水噴霧装置等の安全装置の個別の区画の稼働状況を表示するものであった。日本坂トンネルの東側部分については東換気塔の、西側部分については西換気塔の火災受信盤がそれぞれ制御表示するようになっていた。本件トンネルについては、東換気塔で制御表示していたのはそれぞれ五七区画あった火災感知器及び水噴霧装置のうちの二六区画、四二箇所あった手動通報機及び消火栓のうちの二〇箇所であり、残りは西換気塔で制御表示していた。なお、換気塔には、コントロール室へ直通する業務上の電話があった。

ポンプ室は、別紙図面3のとおり東換気塔に隣接した位置にあり、消火ポンプ制御盤及び消火栓ポンプ制御盤が設置されていた。右各制御盤は、起動したポンプが何らかの原因で停止した場合には手動操作で再起動できるようになっていた。

(二) 人的配置

東西両換気塔及びポンプ室には係員は常駐していなかった。火災が発生した場合には、コントロール室の係員が火点の位置により東換気塔又は西換気塔に行き、手動操作の必要性等に対処することになっていた。

五本件事故の状況

1  本件追突事故の状況

昭和五四年七月一一日午後六時三七分ころ(以下、同日の時刻については時刻のみで表示する。)、本件トンネルの西坑口から東京寄り約四二〇メートルの地点において、追越車線を走行していた大型貨物自動車である梶浦車が停止したところ大型貨物自動車である小谷車が追突し、さらに普通乗用自動車である藤崎車、普通乗用自動車である栗原車、大型貨物自動車である中村車及び同じく大型貨物自動車である橋本車が順次前車に追突した。右各追突後の位置関係は別紙図面8の(1)のとおりであり、梶浦車を先頭に合計六台の車両が順次接着した状態で停止していた。

各車両の停止状況及び損傷状況(後記認定の本件車両火災による損傷も含む。)等は次のとおりであった。

梶浦車は、追越車線から走行車線にかけて進行方向に向い左に約一五度の角度で停止していた。損傷状況は、キャビン前部、前バンパー等の一部に塗装が残存していたほかは全焼していた。

小谷車は、左前部を梶浦車の右後部に衝突したままの状態で停止し、衝突部分の深さは約0.6メートル、幅は約0.7メートルであった。損傷状況は、キャビン右前部・荷台右側面部にうす青色の塗装が残存し、前部ナンバープレートの緑色塗膜が残存していたほか、車体全体が全焼していた。

藤崎車は、小谷車の後部荷台下にほぼ九〇度の角度で潜り込んだ状態で停止し、原形をとどめない程に大破して全焼していた。

栗原車は、小谷車の左後部側面に右側面を接して停止し、後部トランク部分に中村車が上からのしかかるように食い込んでいた。食い込みの深さは約1.2メートルであった。車両は、全焼していた。

中村車は、左前部を栗原車の後部に食い込ませ、右前部を小谷車の後部に接して停止し、左後部には、橋本車が食い込んでいた。車体は全焼していた。

橋本車は、右前部を中村車の左後部に接して停止し、車体は全焼していた。

本件追突事故関係車両の乗員のうち、梶浦車の乗員及び中村車の乗員は、事故後直ちにそれぞれ本件トンネル西坑口及び東坑口に徒歩で退避し、橋本車の乗員である新居一典も、後記のとおり本件トンネル外に退避したが、橋本は退避途中で焼死した。また、小谷車、藤崎車、栗原車の乗員は、本件追突事故によって負傷し、あるいは各車両から退避できずに車両内で焼死した。

2  本件車両火災の状況

まず、本件追突事故の衝撃で、藤崎車の燃料タンクが押しつぶされて亀裂が生じ同車後部下の路面にガソリンが流出した。右路面に流出したガソリンに追突の衝撃による火花又は藤崎車、栗原車若しくは中村車の電装関係の配線等がショートして出た火花が引火して、藤崎車の下部付近、本件トンネル西坑口から約四三〇メートルの地点で火災が発生した(以下これを「火災の第一段階」という。)。この火災は、しばらくは藤崎車、小谷車及び栗原車の車体で遮られるような形で火炎も右各車両の車体下部にとどまりそれほど大きくならなかったが、午後六時三九分ころに栗原車の燃料タンク内のガソリンに引火して火炎が同車を包み込むような形で炎上し(以下「火災の第二段階」という。)、さらに小谷車の燃料タンク内の燃料に引火して大きく炎上した(以下これを「火災の第三段階」という。)。このため、火災は前方の梶浦車及び後方の中村車及び橋本車に延焼し、それぞれの燃料タンクの燃料に引火したり、中村車に積載されていた可燃性物質であるポリエチレン及び橋本車に積載されていたドラム缶約五〇本に入った松脂に引火して、午後七時二分ないし四分、爆発的に炎上する状況となった(以下これを「火災の第四段階」という。)。このため、摂氏八〇〇度ないし一〇〇〇度の高温が発生し、火災感知器、手動通報機、水噴霧装置の自動弁及び非常電話を制御するケーブルの配線が高熱で機能を失い、本件トンネル内に設置されていた右各防災設備は制御することができなくなった。

3  通行者等による救助・消火活動の状況

後続車両の運転者である静岡事件第一審原告澤入は、走行車線を走行していたが、衝突音が聞こえ前車の白い乗用車が突然停車したので、自車を中村車の横付近に停車させたところ、栗原車の後部タイヤ付近から小さな火炎(火災の第一段階)が見えたので、降車して栗原車の側まで行った。すると、車内に人がいたので、乗員を救出しようとしてドアを開けようとしたが開かなかったため、自車までジャッキを取りに行き、ジャッキで栗原車の窓ガラスを割ろうとしたが、窓ガラスを破ることができないうちに火炎が少しずつ大きくなり、栗原車の全体を包み込むような状態で火炎が上がった(火災の第二段階)。このため、静岡事件第一審原告澤入は、救出作業を諦めて自車に戻り、避難するため自車を約七〇メートルバックさせたが、その途中で本件トンネル内の照明が消えたため、自車を放置し、徒歩で本件トンネル東坑口に向けて避難した。

同じく後続車両の運転者である静岡事件第一審原告大石及び橋本車の乗員である前記新居らは、消火活動を行おうとして、本件トンネル西坑口から約四九〇メートルに設置されていた消火栓からホースを引き出し、追越車線の壁面に沿ってホースを引っ張っていったが、橋本車の後部付近までしか届かず、かつ、水が出なかったため、消火活動を諦めてそれぞれ避難した、新居は、自車に戻り、負傷していた橋本を連れて徒歩で本件トンネル東坑口に向かって避難を開始したが、その途中で本件トンネル内の照明が消えた。また、静岡事件第一審原告大石は、自車に戻り、バックさせようとしたが、本件トンネル内の照明が消えたので、自車を放置したまま、徒歩で本件トンネル東坑口に避難を開始した。

4  通行者からの通報の状況

午後六時三九分に日本坂トンネルの下り九番の非常電話を使い通行者から「大型貨物自動車がトンネル内で事故火災、詳細は不明」という通報がされ、同四〇分には下り一六九番の非常電話を使い通行者から「乗用車が燃えている、大型貨物自動車と追突」という通報がされた。

本件トンネル内の非常電話下り九番は西坑口から約五五九メートルの位置に設置されたものであり、下り一六九番は西坑口から焼津インターチェンジ寄り一七九メートルの位置に設置されたものであり、したがって、本件火点からの距離は、非常電話下り九番が約一三〇メートル、非常電話下り一六九番が約六一〇メートルであった。

5  車両の通行台数の変化

午後六時から六時一〇分まで、同一〇分から同二〇分まで、同二〇分から同三〇分まで、同三〇分から同四〇分まで、同四〇分から同五〇分まで、同五〇分から午後七時までの各一〇分間に小坂トンネルと日本坂トンネルとの間に設置されたトラフィックカウンターを通過した車両の数は、四三五台、四四〇台、四九七台、四六〇台、二〇八台、一八台であった。

6  本件延焼火災の状況

本件追突事故関係車両の後続車両は避難しようとしてそれぞれ後退したため、後退した車両のうち先頭車両であった澤入車と本件火点との間は約九〇メートルの距離があった。しかしながら、前記のとおりポリエチレン及び松脂という燃焼する際に高温を発生する物質が中村車及び橋本車に積荷として積載され、これに引火して爆発的に炎上して摂氏八〇〇度ないし一〇〇〇度という高熱を発したため(火災の第四段階)、本件トンネル内が高温となり、いわゆるフラッシュオーバー現象が生じて、後退していた後続車両にも引火し、順次東京寄りの後続車両に引火していった。

本件トンネル内における後続車両の停止位置は、別紙図面8の(1)及び(2)のとおりであり、午後七時四分ころ先頭の澤入車に引火し、引火してしばらくは時速一五〇メートル程度の速度で次々と東京寄りの車両に引火していき、その後引火する速度は遅くなったが、翌日午前四時ころまでには西坑口から一四七〇メートル付近に停車していた別紙図面8の(2)に示す車両番号一六六番の車両に引火した。

7  消防隊の活動状況

静岡消防は、後記のとおり午後六時三九分から四二分にかけて管制室から衝突事故と火災発生の通報を受けて消防隊及び救急隊を出動させた。そのうち用宗隊が東名高速道路の側道を迂回して、午後六時四八分に東換気塔前に到着し、隊員が徒歩で本件トンネル内に入りトンネル内約五二〇メートル地点まで進入したが、濃煙のために火点を確認することができないまま退避した。その後、東換気塔に着いた杉山係員の依頼でポンプ車二台の中継で主水槽へ水を補給する作業をした。静岡消防の消防隊が放水を開始したのは午後一一時以降に焼津消防の消防隊と合同で消火活動を開始した時であり、放水場所は西坑口側の避難通路からであった。焼津消防も、後記のとおり午後七時一八分ころ管制室から正式の出動依頼を受けて消防隊及び救急隊を出動させた。そのうち本署二号車隊が東名高速道路の上り線を進行し焼津側開口部を経由して本件トンネル内に進入し、午後七時四〇分ころ本件追突事故現場付近に到着し、同四一分本件トンネル西坑口の給水栓を使用した放水、タンク車からの放水、化学消火を行った。その結果、本件車両火災の火勢をほぼ鎮圧し、午後一一時ころから澤入車を先頭とする後続車両の火災現場に対して放水作業を開始した。その後、静岡消防及び焼津消防は消火作業について協議し、共同で消火活動を開始した。このような消火活動にもかかわらず、本件トンネル内が高温となっていたため、火勢を鎮圧することが容易にできず、結局、同月一八日午前一〇時に鎮火するまで燃え続けた。

8  本件事故の結果

本件事故の結果、七人が死亡し、追突事故関係車両六台及び第一審原告らの車両を含む後続車両一六七台が焼毀した。焼毀した車両の位置関係は別紙図面8の(1)及び(2)のとおりであり、そのうち、第一審原告らの車両は以下に車両番号で示すとおりであった。

車両番号二番が東京第一事件第一審原告南勢運輸、同六番が同今津陸運、同一四番が同松茂運輸、同二一番が同峯岸運送、同二三番が同宝海運、同二四番が同大川陸運、同三〇番が同中部運輸、同三一番が同フットワークエクスプレスの登録番号名古屋一一か六六二六、同三九番が同小碇運輸、同四三番が同日発運輸、同四五番が同豊田陸運の登録番号三河一一う五六三五、同四六番が同山野運輸倉庫、同四七番が同豊田陸運の登録番号三河一一う六三〇四、同四八番が同丸松運送、同六四番が同丸水運輸の登録番号神戸八八か二三二五、同六六番が同富士中央運送、同七〇番が同山陽自動車運送の登録番号大阪一い一一三九、同八二番が同山陽自動車運送の登録番号大阪一一あ六四一三、同八六番が同曽爾運送、同九一番が同高知通運、同九六番が同和気運輸、同一〇〇番が同日急、同一〇一番が同丸水運輸の登録番号神戸一一か七〇〇九、同一〇三番が同柴田自動車、同一〇四番が同フットワークエクスプレスの登録番号三〇一一か五〇一二、同一〇六番が同ポッカライン、同一一一番が同梅田ラインズ、同一一七番が同北勢運送、同一一八番が同山一運送、同一二〇番が同浜北トランスポート、同一二八番が同浜松輸送センター、同一二九番が同愛知陸運の登録番号沼津一一く一三三三、同一三〇番が同やよい運送、同一三二番が同隅田川運送、同一三四番が同刈谷通運の登録番号三河一一う五一〇〇、同一三七番が同五十嵐運輸、同一三九番が同刈谷通運の登録番号三河か五〇八二、同一四八番が同東礪運輸、同一五六番が同幸伸運輸倉庫、同一六一番が同東洋陸運、同一六四番が同司運輸の登録番号北九州一一か五四三八、同一六五番が同愛知陸運の登録番号名古屋一一き五二九五、同一六六番が同司運輸の登録番号北九州一一か五四五七の各車両であり、同三三番が東京第二事件第一審原告の車両であり、同一番が静岡事件第一審原告澤入和雄、同八番が同大石峯夫、同一〇番が同吉永眞、同一六番が同フクシマの登録番号三河四四ま六九〇〇、同三五番が同小野亮、同三八番が同知久富士雄、同四二番が同高須吉郎、同五一番が同フクシマの登録番号三河に八四四七、同六〇番が同石川鉄工所、同七四番が同平和家具、同九三番が同山口道晴、同九五番が同柴田敏男、同一三六番が同堂原勉、同一四〇番が同渥美仁一郎、同一五四番が同ナカミセ食品の各車両であった。

六第一審被告の対応について

1  管制室の対応

(一) 本件追突事故発生当時、管制室は夜勤体制で小山助役、梅田係員、天野係員の三人で担当し、本件事故発生から午後七時三〇分ころまでは小山助役が非常電話、梅田係員が業務電話、天野係員が指令電話を担当していた。

小山助役は、午後六時三九分、通行者から日本坂下り九番電話により大型貨物がトンネル内で事故を起こし火災となっているという通報を受け、管理室に転送した。また、天野係員は、同四〇分、コントロール室の白石係員から日本坂トンネル内で火災が発生した旨の連絡を受けた。小山助役は、同四〇分、通行者から下り一六九番電話により大型貨物自動車と追突して乗用車が燃えている旨の連絡を受けた。梅田係員は、それらを聞きながら、同三九分から四二分にかけて、静岡消防に対し、本件トンネル内で大型貨物自動車と乗用車の衝突事故があって火災となっている旨通報した。その際、管制室においては、コントロール室に確認をとるなどして本件トンネル内の渋滞状況等を把握し、静岡消防に連絡することはしておらず、その後も後記のとおり焼津消防に出動を依頼するまでの間、渋滞情報に接しながらこれを静岡消防に伝えていない。

小山助役は、同四三分、通行者から日本坂下り七番電話により渋滞の問合せを受け、同四五分、通行者から下り一七六番電話により本件トンネル内で大型自動車の事故があり通行できない旨の通報を受けて管理室に転送した。同四六分、通行者から日本坂下り三番電話により渋滞の問合せを受け、同四九分、通行者から日本坂下り七番電話により事故の通報を受けた。同五〇分、事故関係者又は通行者から下り一六九番電話により車両が炎上している旨の通報を受けて管理室に転送した。同五三分、静岡二号の乗務員(森竹隊員又は永関隊員)から日本坂下り四番電話によりトンネル内の煙がひどくトンネル内の人を誘導してトンネル外に出している旨の連絡を受けた。同五五分、警察官から本件トンネル内の非常電話(番号は特定できない)により換気を最大にして欲しい旨の連絡があった。同五六分、警察官から日本坂下り五番電話により乗用車二台、大型貨物自動車一台合計三台が燃えている旨の連絡を受けて静岡警察に転送した。同五九分、静岡二号の森竹隊員又は永関隊員から日本坂下り四番電話により消防車が到着した旨及び西坑口から四〇〇メートル位のところに事故車があるらしい旨の連絡を受けた。天野係員は、同午後七時四分、コントロール室から業務電話で水噴霧装置、ITV及び照明が使用不能になった旨の連絡を受け、同時に、管制室においても本件トンネル内の非常電話の一部が使用不能になったことを確認した。小山助役は、同七分、日本坂下り三番電話、同四番電話により別々の通行者から問合せを受け、同九分、警察官から日本坂下り三番電話により電気が焼けて消えた旨の連絡を受けた。同一〇分、通行者から日本坂上り五番電話を使って上りトンネルに煙が流れてきて通行できない旨の連絡があった。

午後七時一二分、管制室は、静岡消防から、火災現場は焼津側らしいので焼津消防にも出動要請してほしいとの連絡を受けた。小山助役は、同一六分、森竹隊員又は永関隊員から日本坂下り二番電話によりトンネルの奥が通れないようである旨及び静岡二号を置いたまま避難してきた旨の連絡を受けた。梅田係員は、本件トンネル東坑口から火点までの間に渋滞車両が多数あることを知り、本件トンネル東坑口から消防車が進入するのでは、火点に到達することが難しいと判断し、小山助役の承認を得て、焼津消防に対し、消防車の出動を打診したところ、焼津消防から、火点までの先導及び東名高速道路下り線の焼津インターチェンジから進入し逆行して火点に到達することの許可を求められた。しかし、管制室は、逆行を許せば日本坂パーキングエリアから出てくる車や本件トンネルの火点から避難してくる車と正面衝突する危険があると考えたので、逆行を許さないこととし、その代わりに、東名高速道路上り線焼津インターチェンジから進入し、焼津側開口部から下り線に入るというルートを考え、先導車としては巡回中であった静岡三号を用いることとし、焼津消防にその旨伝えたところ、同一八分、焼津消防は、これを了承し、管制室から正式な出動依頼があったものと取り扱うこととし、管制室は、静岡三号に対し、焼津消防を火点まで先導するように指示した。静岡三号は、午後七時ころに管制室から移動無線により車両火災発生につき焼津インターチェンジで待機するようにとの指示を受け、同一八分に焼津インターチェンジに到着し、そこで消防車を先導せよとの指示を管制室から受けた。

小山助役は、午後七時二〇分、警察官から日本坂下り一一番電話により三台位燃えた旨の連絡を受けて静岡警察に転送した。同二七分、管制室に対し焼津料金所から指令電話により焼津消防の消防車及び救急車が東名高速道路の本線に流入した旨の連絡があり、同二九分、静岡三号の乗員から移動無線により右消防車の先導を開始する旨の連絡があった。午後八時四分、静岡二一号の乗員から小坂下り一番電話により下り線の車両を静岡側開口部から上り線に反転させる旨の連絡を受け、同三八分、森竹隊員又は永関隊員から小坂下り一番電話により停滞車両排除中である旨及び現在小坂トンネル内である旨の連絡を受けた。同五六分、森竹隊員又は永関隊員から小坂下り一番電話によりまだ小坂トンネル内の車両を排除中である旨の連絡を受けた。午後九時一〇分、静岡二一号の乗員から小坂下り二番電話により日本坂二番電話付近までの車両の排除を完了した旨の連絡を受けた。

(二) 以上の事実経過について、静岡消防の交信記録(<書証番号略>)には、午後六時四五分、静岡消防から管制室に対し、火点確認の問合せがなされたのに対し、管制室は、「八番から入っているから日本坂トンネルの静岡側に近い地点で現在水噴霧装置が作動している。テレビカメラでは火が立っていない。」旨回答した旨の記載がある。しかしながら、事故等があったときに指令電話、業務電話及び移動無線等による交信の内容を事後的に整理して記載する管制室の緊急通信処理表(<書証番号略>)によると、同三九分に管制室から静岡消防に対し消防車の出動を依頼した旨の記載はあるものの、静岡消防から管制室に対し火点確認の問合せがあったことに関する記載はなく、右交信記録の記載にいう八番の非常電話の位置は明らかに焼津側であり、静岡側に近いというのはそれ自体矛盾を示している。また、かねてより管制室と静岡消防との間の消防車又は救急車の出動要請は非常電話の番号で事故発生地点を特定して行われており、静岡消防の通信統制室には非常電話の位置を記載した地図が貼ってあった事実(<書証番号略>)に照らすと、仮に右のような回答がなされたとしても、静岡消防は当然疑問に思い管制室担当者に確認したであろうと考えられる。したがって、右交信記録の記載は誤記である可能性も否定できず、管制室の回答によって静岡消防が火点の位置を誤認したと認めることはできない。

次に、管制室の緊急通信処理表には、午後六時五六分に管制室から焼津消防に対し業務電話により消防車の出動を依頼した旨及び午後七時一五分焼津料金所から指令電話により消防車が東名高速道路の本線に流入したとの連絡を受けた旨の記載があり、原審(東京)及び当審証人梅田友久もこれに沿う供述をする。しかしながら、管制室の非常電話受信表(<書証番号略>)が非常電話を受信する度毎にその受信内容の概略を記載するのとは異なり、緊急通信処理表は、緊急処理をした都度それをそのまま記載するのではなく、係員それぞれがメモしたものに基づき事後的に整理されて作成されるものであり、その過程で発生した事柄の時間的前後関係については誤りが生じるおそれがないではない。そして、焼津消防への出動依頼及びそれを前提とする事実の経過について、焼津消防の消防活動記録(<書証番号略>)の記載と焼津消防の消防車の先導を指示された静岡三号の巡回記録(<書証番号略>)の記載がほぼ一致していることのほか、午後七時一二分静岡消防から管制室に火災現場が焼津側のようだから焼津消防へも出動を要請してほしい旨を依頼したとする静岡消防の消防活動記録(<書証番号略>)及び同一六分森竹隊員又は永関隊員から日本坂下り二番電話によりトンネルの奥が通れないようである旨及び静岡二号を置いたまま避難してきた旨の連絡があったとする非常電話受信表の記載をもあわせ考えると、焼津消防の消防活動記録に記載されているとおり、管制室から焼津消防への正式の出動依頼は午後七時一八分ころに行われたと認めるのが相当である。第一審被告は、焼津消防及び静岡消防の右消防活動記録の作成経過が疑わしく信用性がないと主張するが、消防当局が殊更に事実に反する記載をするものとも考えられず、その信用性を否定すべき事由を見いだしがたい。第一審被告の主張するように管制室が焼津消防に出動依頼をしたのが午後六時五六分であったとすると、前記のとおり、焼津消防の消防車が焼津インターチェンジに到着したのが午後七時二七分ころ、火災現場に到着したのが午後七時四〇分ころであるから、焼津インターチェンジまで三一分、火災現場まで四四分かかったことになり、焼津消防の消防活動記録によって認められる同消防の後続の出動消防車の火災現場までの所要時間一二分ないし二四分であるのに比して長すぎることになり、不自然である。なお、静岡管理事務所で本件事故の発生を知り、静岡一号に乗車して焼津インターチェンジから火災現場に出向いた当審証人三宅観孝は、午後七時四三分ころ焼津消防の消防車を先導して現場に到着したところ、そのときには前方五〇メートルくらい先で所属不明の別の消防車が既に放水を行っていた旨供述するけれども、焼津消防の消防車を先導したのは同人の乗車する静岡一号が最初であり、その前に静岡三号が先導したことはないとする点で、先に認定した静岡三号の行動と符合せず、また、緊急通信処理表や非常電話受信表、さらには緊急出動記録(<書証番号略>)によっても同人の右供述が裏付けられていないうえ、午後七時四〇分ころに本件トンネル西坑口に到着した消防車よりも先に出動した消防車はいないことを示す焼津消防の消防活動記録や、後記のとおり、本件事故当時コントロール室係員として西換気塔に駆けつけ、午後七時三〇分ないし三五分ころまで西換気塔及び本件トンネル西坑口付近の様子を現認していた原審証人杉山洋太郎が、本件トンネル西坑口に消防車は来ていなかった旨供述していることなどと対比すると、右証人三宅観孝の供述を採用して焼津消防への出動依頼が前記認定時刻より早く行われたと認めることはできない。

2  コントロール室の対応等

本件追突事故発生当時、コントロール室は、白石係員と井上係員とが前記所掌事務を担当していた。

午後六時三九分ころ、本件トンネル内に設置されていた火災感知器が火災を感知し、コントロール室の監視盤のベルが鳴って、本件トンネル西区間のうち西坑口側(西坑口から約五〇〇メートルの範囲)に設置された火災感知器が火災を感知したことを示す火災表示ランプが点滅を始めた。これにより、白石係員は、前記火災発生の際の処理要領に従い、まずITVのスイッチを入れて、画像が出る約四〇秒の間にITVカメラを七番(本件トンネルの中央部に設置され、西坑口から約一〇〇〇メートルないし八〇〇メートルの範囲を監視するためのもの)に切り換え、出た画像を確認したが、火災を発見することができなかったので、八番カメラ(西坑口から約八〇〇メートルないし六〇〇メートルの範囲を監視するために西坑口から約八〇〇メートルの地点に設置されたもの)に切り換えて確認したが、火災を発見できなかった。そこで、西坑口から五九六メートルの地点に設置してあった九番カメラ(西坑口から約六〇〇メートルないし四〇〇メートルの範囲を監視するためのもの)に切り換えたところ、画面の右上の方に追越車線の方の車両から天井に届くような大きな火炎が上がっているのが映った。白石係員は、井上係員に対し可変標示板に「進入禁止」「火災」の表示を出すように指示し、火災発生を指令電話で管制室に通報した。井上係員は、操作卓の日本坂トンネル東区間の受電発電(八ブロック)の押釦のうち「進入禁止」の釦及び「火災」の釦を押して本件可変標示板に「進入禁止」「火災」を表示させ、表示が出たことをグラフィックパネルによって確認した。白石係員は、続いて西区間の受電(五ブロック)の押釦により同様に上り線用の入口部可変標示板に「進入禁止」「火災」の表示を出し、東区間の換気防災(九ブロック)に移動し、消火ポンプ鎖錠釦を押して操作スイッチにより鎖錠を解いてポンプ運転の指示を出しポンプを起動させた。次に井上係員に指示して、西区間の換気防災(六ブロック)の水噴霧鎖錠釦を押させて操作スイッチにより鎖錠を解き、グラフィックパネル上に水噴霧装置の放水が開始された表示が出たことを確認した。その際、ITVモニターで見ると、放水によって煙の状況が変わった。白石係員は右九ブロックの操作により東の水噴霧装置の鎖錠を解く操作をした。そして、井上係員に西区間の換気を逆転させるように指示し、同係員は右六ブロックの逆転鎖錠の釦を押し操作スイッチで鎖錠を解いた。白石係員は同様に右九ブロックで同様な操作をして東区間の換気を逆転させた。次に井上係員と分担してトンネル内の照明を全部点灯させた。以上の操作は午後六時四三分ころ終了した。

本件車両火災現場を映していたのは、三台のうち中央の共用のモニターであったが、右の操作の終了後、右モニターの画面は煙のため霧がかかったように白くなっていて火炎自体は見えなくなっていた。同四五分ないし四六分、白石係員が一番下の本件トンネル専用モニターを使いカメラを切り換えて一番カメラから順に本件トンネル内の様子を見たところ、停車車両は大体二列に停止し、車のドアを開けている人や何人かが東坑口に向って歩いている姿が映し出された。しかし、覚知した右渋滞状況を管制室に連絡しなかった。その後、他のコントロール室係員や静岡管理事務所の職員等を招集する連絡を行った。午後七時二分ないし四分、まず本件トンネルの照明が軽故障であることを示すブザーが鳴り始め、故障箇所の表示灯が点滅した。その後右ブザー、重故障を示すベルが鳴り始め、複数の表示灯が点滅しだした。また、ITVモニターの画像も消えてしまった。そこで、点滅停止、表示復帰釦を押してみたが直らず、完全な故障状態であり、コントロール室では対処できないことがわかった。

ところで、前記のとおり火災事故が発生した場合は、コントロール室の係員が火災発生地点により東換気塔又は西換気塔に行く業務の扱いとなっていた。本件事故当日残業していた杉山係員と依田係員は、午後六時五〇分ころ、西換気塔へ向けて第一審被告の維持作業車の静岡三六号で出発し、一般道を経由して午後七時一五分ころ西換気塔に着いた。その際同換気塔から黒煙が出ていた。西換気塔内の火災受信盤をみると、火災表示灯が消えており、水噴霧装置の作動箇所を示す表示灯が四箇所(四二、四四ないし四六)点灯し、ポンプ運転灯の赤いランプも消えていた。そこで、杉山係員は、手動操作に切り換えて操作してみたが変化がなく、徒歩で本件トンネル内に六〇メートルないし七〇メートル入ってみると、照明が消えていて、煙が大量に出ていた。同係員は、再び西換気塔にもどり、コントロール室の指示で依田係員を残して、午後七時三〇分ないし三五分に東換気塔に向かって出発し、同四〇分ないし四五分に東換気塔に着き、ポンプ室に入ってみるとポンプが止まっていたが、水位が中間であることを示す表示がついていたので、遠隔操作から現場操作に切り換えて、同四五分ころポンプを再起動させ、その旨をコントロール室と西換気塔に連絡した。起動後水槽の蓋をとって中の様子を見ると半分位水があることがわかった。また、静岡消防の消防隊に水の補給を依頼したところ、同消防隊は約三〇〇メートル離れた小坂川から中継して補給作業をした。しかし、午後八時五分ころ、水がなくなったためポンプが停止した。その後、ある程度水が補給されるとポンプ運転を開始させ、なくなると停止させるという作業を二、三回繰り返した。

また、太田国雄は、第一審被告より委託を受けて電気電信及び機械設備の保守点検を行っている日本高速道路施設管理株式会社の静岡作業主任であるが、自宅で夕食中であった午後六時四五分ころ、杉山係員から本件トンネルで事故があったから至急コントロール室に出勤するよう連絡を受けたので、マイカーを運転して午後七時一〇分ころコントロール室に出勤したところ、白石係員から西換気塔に行くように指示され、同一五分ころ会社の点検車を運転して西換気塔に向かい出発し、同五〇分ころ到着した。到着時には既に依田係員が計器類を点検していたが、火災受信盤のヒューズが飛ぶなどの異常があったため、その原因究明のため、急遽本件トンネル内に入り、火災現場に近づいたところ、消防車等が消火活動をしているのを確認したが、自動弁などの防災設備が火力によって損傷を受けていて修理が不可能であると考えたため、一応西換気塔に戻り、火災受信盤のヒューズの付け替えなどを試みたものの、その異常を解消することができなかった。

原田博介静岡管理事務所長は、本件事故発生当時同事務所内にいたが、午後六時四〇分すぎ、杉山係員が「トンネル火災です。」といって事務所に飛び込んできたので、直ちにコントロール室へ行き、係員から事故の状況を聞くとともにテレビモニターを見たところ、テレビ画面の中央に炎らしいものが確認された。そこで、同席していた中村助役を、人命救助、避難誘導等のために本件トンネル内の火災現場に行くように指示するとともに(同助役は本件トンネル東坑口方面へ向かう。)、自らはコントロール室でモニターを見るなどしていたところ、午後七時二分ないし四分ころ前記のとおりブザーが鳴ってモニターが消えるなど防災設備に故障が発生したので、約一〇分後に技術職員とともに同事務所を出発し、当初は静岡インターチェンジから入って東名高速道路下り線の路側帯を進んだが、用宗付近まで進行してみると車両が渋滞していて本件トンネル内に進入することができないような状況であったため、転回して静岡インターチェンジまで戻り、それから一般道路を通って本件トンネル西坑口からトンネル内に進入し、午後八時すぎころ火災現場に到着した。

3  東坑口付近での対応

静岡管理事務所内に待機していた交通管理隊の森竹隊員は、午後六時四〇分に管制室から火災発生の一斉通報を受け、同四二分、静岡二号で永関隊員とともに火災現場に向かって出動した。静岡インターチェンジから下り線の本線を進行すると、本件トンネル東坑口から約二キロメートル手前あたりから渋滞し始めた。小坂トンネル手前の本件可変標示板には「進入禁止」「火災」の表示が出ていた。森竹隊員らは、本件トンネル東坑口にいた警察のパトロールカーに先導してもらい、停車車両に左右に回避してもらって、本件トンネル内に進入して約五三〇メートル前進したが、車両の混雑のため、それ以上の進行が不可能となったので停車した。そのとき天井板に白い煙が流れていたので、避難させた方がよいと判断し、同五三分に本件トンネル内の非常電話四番で管制室に連絡してから、トンネル外に避難するように車のマイクで放送した。四、五分間右の避難誘導活動をし、同五九分ころ管制室に消防車が到着したことと煙が多いのでガスマスクが必要である旨の連絡をした。そうしているうちに煙がひどくなってきたため、退避しようとして静岡二号に戻り方向転換をしたが、煙が非常に濃くなって視界がきかず運転ができなくなったので、車両からおりて徒歩でトンネル外に避難した。午後七時一六分、避難する途中本件トンネル内の非常電話二番で管制室にその旨を連絡した。右方向転換を開始したころ照明の基本灯が消えた。東坑口の入口部の常灯は点灯していた。森竹隊員は、東坑口に戻ると、警察及び消防と今後の対応を協議し、危険物の積載車両の調査をし、永関隊員に対して静岡側開口部(本件トンネル東坑口から約一キロメートル東側にある。)に行き同部を開けて車両を上り線に迂回させるように指示した。森竹隊員は、約一時間右調査等を東坑口付近で行い、その後右開口部に行って、永関隊員、警察官及び第一審被告の職員等と協力して車両のUターン作業をし、翌日午前零時前後までに右開口部から本件トンネル内にかけて停滞していた車両のうち約二〇〇台を上り線を経由して避難させて右作業を終了した。

第二国賠法二条の責任について

一営造物の設置又は管理の瑕疵

国賠法二条一項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠如していることをいうが、右の安全性の欠如とは、当該営造物を構成する物的施設自体に存する物理的、外形的欠陥ないし不備によって他人の生命、身体又は財産に対し危害を生じさせる危険性がある場合のみならず、その営造物の設置管理者の不適切な管理行為によって右の危害を生じさせる危険性がある場合も含むものと解すべきである。

そして、当該営造物が有料高速道路上のトンネルであり、そのトンネル内において車両の衝突事故等に起因して生じた火災が後続の車両に延焼した場合に、後続車両の損害との関係において右トンネルが安全性を欠如していたかどうかの判断は、トンネルの構造(長さ、幅員、内部構造等)、右事故当時における当該トンネルの交通量、交通形態(一方交通か対面交通か)、通行する車両の種類、その積載物の種類ことに易燃物等危険物の輸送の状況、過去の事故の態様・原因、長大トンネル一般における事故の発生の態様・原因等に照らし、右トンネル内において発生することが予見される危険に対処するための物的設備・人的配備及びこれらの運営体制、消防署及び警察署等の他の機関に対する通知及びこれらの機関との協力体制並びに高速道路の利用者に対する当該危険が発生したことの通知・警告のための設備ないし方法等(以下、これらをまとめて「トンネルの安全体制」という。)が、右危険を回避するために合理的かつ妥当なものであったかどうかに基づいてするのが相当であると解すべきである。

以下、この観点に立って、まず、本件トンネルにおいてどのような危険を予見することができたか、本件事故は右予見可能な危険の現実化といえるかを検討し、次いで本件事故が予見可能な事故であることを前提とした場合に、どのようなトンネルの安全体制を設置・運用すべきであったか、本件においてそれが現実に設置・運用されていたかどうかを判断することとする。

二予見可能性

1  <書証番号略>、原審(東京)証人定塚正行及び同(東京)今田徹の各供述によると、以下の事実が認められる。

(一) 交通量

(1) 東名高速道路の道路総幅員は六車線32.6メートルのところと四車線25.5メートルのところとがあり、神奈川県厚木市と愛知県小牧市との間311.7キロメートルは四車線であり、四車線区間での設計交通容量は一日当たり四万八〇〇〇台とされていた。

年間交通台数は、全線供用開始の昭和四四年で四一四八万七五二三台であったところ、本件事故が発生した昭和五四年では九四三〇万三〇一三台であり、2.27倍強の通行量の増加を示していた。

日本坂トンネルのある静岡インターチェンジ・焼津インターチェンジ間の一日当たりの平均交通量は、昭和四五年の三万一四一一台に対し、昭和五四年には四万九一九五台と1.56倍を超える増加を示していた。

(2) 東名高速道路における全線供用開始の昭和四四年から本件事故のあった昭和五四年までの年度別の通行台数は、東京事件原判決別表(一)(以下に用いる別表はいずれも同原判決のものである。)のとおりであり、同表によると、昭和四四年から昭和五四年までの間、昭和五〇年及び昭和五四年を除いていずれの年も前年より通行量が増加し、昭和五三年には九七二三万七五〇九台に達し、前記のとおり昭和四四年と昭和五四年とを比較すると2.27倍強の通行量の増加を示していた。なお、昭和五〇年の減少はいわゆるオイル・ショックの影響によるものであり、昭和五四年の減少は本件事故による通行止めの影響によるものと考えられる。

第一審被告の東京第一管理局が所管する東京インターチェンジから三ヶ日インターチェンジまでの区間における一日当たりの平均交通量を昭和四五年から昭和五四年までについてみると別表(二)のとおりであり、同表によると、日本坂トンネルの所在する静岡インターチェンジと焼津インターチェンジ間においては、東名高速道路の全体の交通量と同様、昭和四五年から昭和五四年までの間、昭和五〇年及び昭和五四年を除いていずれの年も前年より通行量が増加し、昭和五三年には五万五八一七台に達し、前記のとおり昭和四四年と昭和五四年とを比較すると1.56倍を超える通行量の増加を示していた。なお、前記設計交通容量四万八〇〇〇台という数字は、通年で渋滞なく定常走行が可能となる台数であって、四車線で設計速度時速一〇〇キロメートルの場合には、可能交通容量が一時間当たり三一〇〇台、一日当たり六万三〇〇〇台であるから、設計交通容量を超えても直ちに高速道路としての機能を失ったり安全性に支障が出るわけではなかった。

(二) 車種別交通量

(1) 車種別の交通量は、昭和四七年には全線平均で普通車が77.2パーセント、大型車が20.2パーセント、特大車が2.6パーセントの割合であり、昭和五四年には普通車が70.5パーセント、大型車が26.2パーセント、特大車が3.3パーセントであった。

(2) 東名高速道路全線における車種別平均交通量を昭和四七年度から昭和五四年度までについてみると、別表(三)のとおりであって、同表によると、同期間においては普通車の比率が毎年低下し、大型車及び特大車の比率が少しずつではあるが上昇していた。第一審被告が昭和五四年一一月一三日及び同月一四日に行った調査によると、東名高速道路の大井松田インターチェンジから焼津インターチェンジ間を通行する車両のうち、石油類等の危険物を積載している車両は、全車両の2.4パーセントであった。

(三) 事故件数

東名高速道路の東京インターチェンジから三ヶ日インターチェンジ間における本線上の事故件数を昭和四五年から昭和五四年までについてみると別表(四)のとおりであって、昭和四五年に二五七九件発生し、その後漸増して昭和四八年に三四四七件に達したのをピークとして、その後は二四七三件ないし二七〇六件の間を推移し、昭和五四年には二三五四件であった。

静岡インターチェンジ・焼津インターチェンジ間についても同様の傾向であり、昭和四五年に一二一件発生し、その後漸増して昭和四八年に二一一件に達したのをピークとして、その後は一五〇件ないし一六四件の間を推移し、昭和五四年には一二一件であった。

(四) 事故率

東名高速道路の東京インターチェンジから三ヶ日インターチェンジ間における本線上の事故率(車両一台が一億キロメートル走行した場合に換算して計算した事故の発生件数、以下同じ。)を昭和四五年から昭和五四年までについてみると別表(五)のとおりであって、昭和四五年に97.7件と最高の発生率を示したが、その後は昭和四六年に94.1件、昭和四七年に91.3件、昭和四八年に78.8件、昭和四九年に63.2件、昭和五〇年に60.8件、昭和五一年に62.5件、昭和五二年に59.8件、昭和五三年に54.8件、昭和五四年に47.8件と昭和五一年を除いては一貫して低下し、昭和四五年と昭和五四年とを比較すると発生率は半減した。しかしながら、静岡インターチェンジ・焼津インターチェンジ間については全体の傾向とは異なり、昭和四五年に89.4件、昭和四六年に83.3件、昭和四七年に82.7件、昭和四八年に92.8件、昭和四九年に68.7件、昭和五〇年に70.3件、昭和五一年に74.7件、昭和五二年に69.1件、昭和五三年に64.9件、昭和五四年に57.1件であり、昭和四八年に最高値を示してからは昭和五三年まで64.9件ないし74.7件の間を推移し、昭和五四年に初めて57.1件と六〇件を切る発生率となったが、昭和四八年以降は毎年全体の発生率を上回り、昭和五〇年以降については約一〇件の開きがあった。

(五) 車両火災事故

前記の事故件数のうち、車両火災の件数及び原因は、別表(六)及び(七)のとおりであり、昭和四五年から昭和五四年の間の合計は三三〇件、年平均三三件であり、昭和四五年には五五件であったものがほぼ減少傾向をたどり、昭和五〇年には一三件まで減少したが、その後再び増加傾向となり、昭和五四年には二九件であった。静岡インターチェンジ・焼津インターチェンジ間では合計一八件発生したが特徴的な傾向はみられず、発生しない年もあり、最高でも昭和四八年の五件であった。また、前記三三〇件のうち追突事故等の車両相互の事故を原因とするものは合計八件であり、九割以上の三〇二件が車両の整備不良によるエンジン、マフラーの過熱等によるものであった。

(六) トンネル内の事故件数・事故率

東名高速道路の東京インターチェンジから三ヶ日インターチェンジ間には合計九箇所のトンネルがあるが、そのうち長さが二〇〇〇メートルを超えるのは日本坂トンネルの上下線のみであり、一〇〇〇メートルを超えるのは都夫良野トンネル上下線であった。右九箇所のトンネル内で昭和四七年から昭和五四年までに発生した事故件数は、別表(八)のとおり合計九三八件であり、年別では八八件ないし一四三件の間を推移していた。

日本坂トンネルについては合計二九三件、年別では二七件ないし四七件の間を推移していたが、右二九三件のうち上り線トンネル内で発生したものが一一四件であるのに対し、下り線の本件トンネル内で発生したものが一七九件と多いのが特徴的であった。本件トンネル内で発生した事故のうち、車両相互の事故は昭和五一年に二五件、昭和五二年に一五件、昭和五三年に二四件、昭和五四年に一三件であった。また、右九箇所のトンネル内の事故率は別表(九)のとおりであり、本件トンネルについては昭和四七年に四七件、昭和四八年に一五七件、昭和四九年に一六七件、昭和五〇年に七七件、昭和五一年に一七六件、昭和五二年に九四件、昭和五三年に一二二件、昭和五四年に八二件と、昭和四七年を除いてはいずれの年も前記の東名高速道路の東京インターチェンジから三ヶ日インターチェンジ間における本線上の事故率及び静岡インターチェンジ・焼津インターチェンジ間における事故率を上回っており、昭和五一年のように二倍を超えることもあった。

(七) トンネル内車両火災

(1) トンネル内車両火災の概要

第一審被告が管理するトンネル内で発生した車両火災のうち、昭和三八年九月から本件事故当時までに発生したものの火災の概要は、別表(一〇)の番号1から番号24までである。同表によれば、車両相互間の事故が出火原因となったものは、後記の関門トンネル事故(同表の番号5)、昭和四六年八月一一日に発生した東名高速道路下り線興津トンネルの事故(同表の番号12番)及び昭和五二年一二月八日に発生した名神高速道路下り線の梶原トンネルの事故(同表の番号19番)の三件であった。なお、高速道路トンネル内の火災の発生率は、統計上一台一億キロメートル当たり0.4ないし0.5件であり、事故率と比較するときわめて低い発生率であった。

(2) トンネル内延焼火災の具体例

日本坂トンネルの設置までに、次のようなトンネル内における延焼火災事故がわが国の内外で発生していた。

ア ホランドトンネル事故

昭和二四年五月一三日、アメリカ合衆国のニューヨークとニュージャージー間のハドソン川の河底トンネルであるホランドトンネル南トンネル(延長二七八三メートル、二車線の一方通行トンネル)で火災事故が発生した。この火災は、ニュージャージー坑口から八八〇メートル入った地点で、二硫化炭素を詰めたドラム缶八〇本を満載した大型トレーラートラックのドラム缶が爆発したことより発生した。ドラム缶の爆発を知った運転手は直ちに高速車線側に寄せて停止したが、ドラム缶から吹き出す火炎のため後続のトラックは事故車の横を通過できず、四台のトラックが火点に集中し、計五台のトラックが炎上した。さらに、約一〇〇メートル後方に停止した五台の車両にも火が移り、計一〇台の車両が燃えた。この火災により死者は出なかったが、負傷者は六六名で大半はガス中毒であった。このホランドトンネル事故は、危険物輸送車が起こした事故であり、トンネルの防火対策に大きな影響を与えた有名な火災であった。

イ 鈴鹿トンネル事故

昭和四二年三月六日、国道一号線の滋賀県と三重県境に設けられた長さ二四五メートルの鈴鹿トンネルの三重県側坑口から三一メートル進入した地点で車両火災が発生し、右火災は対向車線に停車していた車両に引火してその後続車両に次々に燃え移り、出火原因車を含め合計一三台の貨物自動車が焼毀した。この火災の出火原因は、車両間の事故からではなくエンジン部からの出火であり、出火原因車の積荷は合成樹脂のアイスクリーム容器であった。出火原因車の運転手が他の車両の運転手から消火器を借りて消火しようとしたが、消火器の使用方法がわからず役立たなかった。出火から火勢が弱まるまで一七時間余りを要した。

ウ 関門トンネル事故

昭和四二年八月一一日、長さ三四六一メートルの関門国道トンネルの上り線門司側坑口から約一五〇メートルの地点で衝突事故が発生し、燃料タンクが破損してガソリンが流出して発火する事故が発生した。直ちに運転手と現場にいた交通管理員が消火器によって消火作業を行った結果、右火災は六分後に鎮火し、事故関係車両の普通貨物自動車一台の半焼にとどまり、他車への延焼は免れた。

(3) 危険物積載車両の通行について

わが国において、危険物等を積載する車両の通行を規制しているのは、水底トンネル及び水底トンネルに類するトンネル(水際にあるトンネルで当該トンネルの路面の高さが水面の高さ以下のもの又は長さ五〇〇〇メートル以上のトンネル)だけであって(道路法四六条三項、道路法施行規則四条の六)、日本坂トンネルについてはなんら規制はなかった。

危険物の積載車両については、車両構造、積載方法、運搬方法、消火器の備付け等の規制(道路運送車両の保安基準、昭和二六年七月二八日運輸省令)がされていた。

2 以上に認定した交通量、事故件数ことに東名高速道路の静岡インターチェンジと焼津インターチェンジとの間における事故率が高いこと、車両火災事故も少なからずあったこと、高速道路内の火災の発生率は事故率と比較すればかなり低いものであったが、過去にトンネルで火災が発生して後続車両に現実に延焼し又は延焼する危険が発生したことがあること、本件トンネルについては危険物積載車両の通行が制限されていなかったこと、後記のとおりトンネルの設置基準の重要な目的は火災発生の防止及び発生した火災の延焼阻止であったこと等からすると、本件トンネル内で車両の衝突事故が発生した場合には燃料や積荷の可燃物に引火して車両火災が起こり、その後続に渋滞車両があれば延焼火災となり、もし高温可燃物その他の危険物積載車両が含まれていたときは大規模な延焼がありうること、したがって、車両火災が発生したときにはこれを初期の段階で消火し、また、後続車両等に対し迅速かつ的確な情報を提供する等の対応策を講じないと、トンネル内に進入して渋滞した後続車両に延焼し、その乗員等の生命、身体又は財産を侵害する危険があることは、見やすいところであり、第一審被告としてもこれを予見していたか又は容易に予見することができたものと認められる。

第一審被告は、本件事故のように九〇メートルも離れた後続車両への延焼は予見しえなかった旨主張する。しかし、トンネル内事故の態様は様々でありうるものであり、実際にも前記のとおり一〇〇メートル離れた後続車両が延焼した事故例があり、また、トンネル力学を主に研究している原審(東京)証人今田徹の「トンネル内で一〇〇メガワット以上の大規模な火災が発生すると、本件事故のように相当離れた後続車両にも延焼が発生しうる。タンクローリー車が燃焼するなどしたときには、一〇〇メガワット以上の火災となり、この程度の火災は実際例としても発生している」旨の供述に照らすと、本件延焼事故が予見可能の範囲を超えたものであったとは認められず、右予見可能な危険が現実化したものであるというべきである。

三設置基準

<書証番号略>、原審(東京)証人今田徹、同(東京)原田博介、同(東京)定塚正行、当審証人長谷義明、同梅田友久の各供述、原審(東京)における検証の結果によれば、トンネルについては、その特殊性から、事故の発生防止及び発生した事故の拡大防止について以下の1及び2のとおり法令及び行政上特段の配慮がされており、第一審被告もそれに対応して独自の基準を設定していたことが認められ、また、本件事故後の防災設備の改善状況は以下の3のとおりであることが認められる。

1  法令・行政上の規制

(一) 昭和四二年四月一四日局長通達

トンネルにおける非常用施設について行政上の取扱基準として最初に通達されたものは、昭和四二年四月一四日局長通達であった。この通達は、トンネルを交通量及び延長によってAからDまでの等級に分類し、その等級に応じて備えるべき非常用施設を定めていた。日本坂トンネルはA級トンネルに該当したが、A級トンネルについては、非常用警報装置、通報装置、消火器及び消火栓を設けることとし、また、換気施設を設けるトンネルにあっては、これに火災時の排煙機能を付加するものと定められたが、各設備の仕様等については、定められていなかった。

(二) 昭和四二年四月一八日局長通達

昭和四二年四月一七日総理府に置かれた交通対策本部は、「トンネル等における自動車の火災事故防止に関する具体的対策について」を決定したが、そのうちトンネルにおける消火・警報設備等の整備充実の項は、昭和四二年四月一四日局長通達と同様の内容のほかに、トンネルの付近に道路維持用の水槽等の水利を設置する場合においては、これらの水利を消火用水利として活用できるよう配慮するものとするとの項が付加された。右交通対策本部の決定を受けて、建設省道路局長は、同月一八日に昭和四二年四月一八日局長通達を発したが、その内容は、①トンネルに設ける消火・警報設備等は、道路の構造の一部であるから、道路管理者において、その整備充実を図ること、②トンネル内に設ける消火・警報設備等の設置基準は、昭和四二年四月一四日局長通達によること、③消火・警報設備等の種類、規格、具体的な設置要領等については、別途指示する予定である、というものであった。

(三) 昭和四二年八月四日課長通達

昭和四二年八月四日建設省道路局企画課長は、第一審被告の担当部長に宛てて昭和四二年八月四日課長通達を発したが、この通達は、昭和四二年四月一四日局長通達の設置基準に定める非常用施設に関する標準仕様を定めたものであって、その内容の大要は、東京事件原判決別紙比較表(以下「別紙比較表」という。)の昭和四二年八月四日課長通達欄記載のとおりであった。なお、右課長通達による非常警報装置の標準仕様のうち、右別紙比較表に*を付けたものは、昭和四三年一二月七日課長通達によって改訂された。

(四) 昭和四三年一二月七日課長通達

昭和四三年一二月七日建設省道路局企画課長は、第一審被告の担当部長に宛てて昭和四三年一二月七日課長通達を発したが、この通達は、昭和四二年八月四日課長通達の標準仕様のうち非常警報装置についての標準仕様を改訂したものであって、その内容の大要は、別紙比較表の昭和四三年一二月七日課長通達欄記載のとおりであった。主な改訂は、昭和四二年八月四日課長通達では非常警報装置のうち音による警報として警鐘(電鐘式)が定められていたのをサイレンとしたほか、警報装置の規格をより詳細にしたことであった。

(五) 道路構造令の制定

昭和四五年一〇月二九日制定された道路構造令(政令第三二〇号)によって、初めて法令上トンネルの防災設備について規定が設けられた。同令三四条三項は、「トンネルにおける車両の火災その他の事故により交通に危険を及ぼすおそれがある場合においては、必要に応じ、通報施設、警報施設、消火施設その他の非常用施設を設けるものとする。」と規定していたが、その具体的な設置基準等についてはなんら規定するところがなかった。

(六) 昭和四九年一一月二九日局長通達

昭和四九年一一月二九日建設省都市局長・道路局長は、第一審被告の総裁に宛てて昭和四九年一一月二九日局長通達を発した。右通達は、昭和四二年四月一四日局長通達を廃止し、道路トンネルの建設及び維持管理をするのに必要な技術基準を新たに定めたものである。この技術基準のうち非常用施設については、その種類として通報装置、非常警報装置、消火設備及びその他の設備(排煙設備、避難設備、誘導設備、非常用電源設備等)とし、トンネルの等級をその延長及び交通量に応じて四段階(A、B、C、D)に区分し、その等級に応じて非常用施設を設けるものとした。日本坂トンネルが該当するA等級のトンネルには、通報装置、非常警報装置及び消火設備(消火器及び消火栓)を設けることとしていた。各装置・設備についての大要は、別紙比較表の昭和四九年一一月二九日局長通達欄記載のとおりであった。

2  第一審被告の基準

(一) 暫定基準

日本坂トンネルの建設においては、土木工事が昭和四一年三月着工され、昭和四三年四月に竣工したが、防災設備工事は昭和四三年五月から昭和四四年一月に行われた。本件事故当時の本件トンネルの防災設備の内容は前記のとおりである。右防災設備は、第一審被告が、昭和四二年四月一四日局長通達及び昭和四二年八月四日課長通達を参酌し、同年八月、「道路トンネル内の自動車火災事故等非常時における交通の安全をはかるため、トンネルに設置する消火、警報設備等の防災設備の計画、設計を行なうに必要な一般的、技術的基準を定めることを目的」として設定した第一審被告の暫定基準に従って定められたものであった。もっとも、水噴霧装置及びITVについては、右暫定基準により設置するものとはされていなかったけれども、本件トンネルが長大トンネルであって交通量も大きくA級のトンネルに当たることなどから望ましいとして設置されたものであった。右暫定基準の内容の概略は、以下のとおりであった。

(1) 警報設備

警報設備は、トンネルの両側坑門付近において視覚及び聴覚により後続車に非常警報等を発する機能を有し、通報設備と連動して作動することを原則とするとされていた。警報設備としては次のものが考えられる。

ア 電光標示板

トンネル内の状況(火災発生、事故発生、作業中等)及びこれに対する適切な指示(進入禁止、徐行等)を電光表示によって通行車両に与える装置で、信号灯、サイレン、ブザー等との組合せが考えられるとされていた。その設置場所は、高速道路等にあってはトンネルの手前一五〇メートルの地点とする。

イ 内部照明式標示板

トンネル内の状況(火災発生、事故発生、作業中等)及びこれに対する適切な指示(進入禁止、徐行等)を内部照明式の標示板によって通行車両に与える装置で、信号灯、サイレン、ブザー等との組合せが考えられる。

(2) 通報設備

通報設備は、火災その他非常の際に、その原因者あるいは発見者が、又は自動的に、トンネル管理所(道路管理所)、消防署、警察署等必要な個所に連絡する機能を有するもので、警報設備と連動させることが望ましいとされていた。通報設備として次のものが考えられる。

ア 手動通報設備

手動通報設備は手動通報機(押しボタン式通報機、電話等)及び受信機(盤)で構成され、火災その他非常の際に、原因者あるいは発見者が手動通報機を操作し、トンネル内での非常事態発生、並びに必要があればその位置を受信機(盤)によって報知し、警報指令を行う装置とされていた。また、手動通報機の取付個所には標示灯又は表示板を設けることを原則とする。

イ 自動通報設備

自動通報設備は火災感知器と受信機(盤)で構成され、火災を自動的に感知し、火災の発生並びにその位置を受信機(盤)によって報知し、警報指令を行う装置で、必要があれば、換気ファンの切換え、水噴霧設備の起動等の制御を行うことができる機能を有するものが望ましいとされていた。また、火災感知器は誤作動のおそれのない、適正な感度のものを合理的に取り付けるものとする。

ウ 受信機(盤)

受信機(盤)の設置場所はトンネル管理所又は道路管理事務所(道路維持事務所)等、人が常駐して受信、監視、処理、保守を行うのに便利な場所とする。

(3) 消火栓設備

消火栓は、消火器同様、初期消火及び火災の拡大を防ぐために使用するもので、トンネル内では、開閉弁及びホース接続口に連結したホース、筒先が消火栓ボックス内に格納され、使用時開閉弁を開くと直ちに放水できる状態になければならないとされていた。また、必要があれば、トンネル外の坑口付近に消防車用屋外消火栓設備を設置することが望ましい。なお、本件トンネルが設置された当時の防災設備と昭和四二年八月四日課長通達、昭和四三年一二月七日課長通達及び昭和四九年一一月二九日局長通達の各通達に定める設備の内容及び仕様を対比すると、別紙比較表のとおりであった。

(二) 標準仕様

第一審被告は昭和四三年四月に第一審被告の標準仕様を定めた。これは、第一審被告が高速道路調査会に対して「トンネル防災設備に関する研究」の委託をし、道路技術研究会トンネル研究小委員会のトンネル防災分科会に専門委員会を設けて行った調査研究の結果をとりまとめたものであるが、当時前記鈴鹿トンネル事故を契機に各方面において検討されていたトンネル火災事故に対する対策、第一審被告が受けていた昭和四二年四月一四日局長通達及び昭和四二年八月四日課長通達並びに第一審被告の暫定基準等をふまえて、トンネル内の火災事故を主な対象とし、トンネル防災設備の集大成としてまとめられたものである。

第一審被告の標準仕様の内容で、第一審被告の暫定基準と異なる点ないしは明確にされた点の主要なものの概略は、以下のとおりであった。

(1) トンネルには、自動車火災事故その他非常の際における危険を防止するため、トンネルの等級に応じて、次の事項に関して必要な防災設備を設け、適切な運用、管理を行わねばならないとされ、その事項として、①事故発生等の情報を迅速かつ的確に把握しうること(通報設備)、②事故発生の際通行車に対する警報その他適切な指示を行いうること(非常警報設備)、③事故の拡大を防ぎ、事態を速やかに収拾しうる用意のあること(消火設備、退避設備、排煙設備)があげられていた。

(2) 具体的な設備について

ア 火災検知器

火災検知器は輻射式検知器又は熱式検知器を用いることを原則とする。輻射式検知器は、その警戒範囲内において一メートル四方の火皿で自動車用ガソリンを燃焼した場合、点火後三〇秒以内に作動するものであり、かつ、検知器取付位置の環境光、又は走行車両のヘッドライト、緊急自動車の警戒灯等によって非火災報を発したり、作動不能の状態にならないことが必要である。また、火災検知器の作動によりトンネル内水噴霧装置及び非常警報装置等を連動で制御する場合等トンネルの特殊性を考えると、火災警報に対する信頼性が非常に高く要求される。したがって、火災検知器が二つ以上同時に作動したときに警報を出すようにするなど管理所の受信機で検知器の機能を容易に試験できる等の確認方式を考慮することが望ましい。検知器の故障、電路の故障等により誤報を出さないよう受信機においてペア回路を構造する等信頼性を高める配慮をしておくことが好ましい。また、特にトンネル内水噴霧装置と連動する場合には走行中の車両に対して注水し、そのために事故を起こすことのないように、十分な配慮が必要である。

イ 非常警報設備

非常警報設備は、トンネルにおける自動車火災事故等の発生を後続車等に報知、警報し、それに伴う二次災害を軽減することを目的として、運転者の視覚及び聴覚に警報を与える固定設備である。多くのトンネルは、辺鄙な山間部や自動車専用道路にあり、一般に自動車の停車を要求されることがないと考えがちであるので、単に視覚による警報表示だけでなく音信号発生装置による聴覚信号を併用することが望ましい。非常警報設備は事故発生と同時に作動すべきものであるので、通報設備と直接連動させることを原則とするが、管理所等で適切な処置をとりうる場合は間接的に人を介して作動させることもできる。

ウ 音信号発生装置

音信号発生装置は、警報表示板とともに作動し、運転者に非常警報を与えるもので、サイレン、電鐘等が考えられ、前方二〇メートルの位置において一一〇ないし一二〇ホンの大きさを有し、指向角は三〇度以上とすること、同装置は原則として警報表示板の前方に設けることとする。

エ 消火設備

消火設備は、トンネルにおける自動車火災を迅速有効に消火し、又は火災の拡大を防ぐために設けられるものであり、これらには、消火器、消火栓設備及び水噴霧設備等がある。

オ 消火栓

消火栓設備は、貯水槽、消火ポンプ、給水管、消火栓(開閉弁、ホース接続口)、ホース及び筒先により構成される。各消火栓から直ちにどの地点へも到達できるよう、三〇メートルのホースをホース接続口に連結して消火栓箱に格納し、火災の際、ホースを容易に引き伸ばして、開閉弁を開けば直ちに放水できる状態にしておかなければならない。

カ 水噴霧設備

水噴霧設備は、給水本管より分岐した枝管に水噴霧ヘッドを固定し、水を噴霧状に放射して火災を抑圧もしくは消火し又は火熱からトンネル施設を冷却保護してその延焼を防止するためのもので、通常の放水ノズルの水粒に比して粒径が小さく、水を経済的効果的に利用できる。しかし、水噴霧により引火点の高い絶縁油、潤滑油、重油等は消火できるが、ガソリンのような引火点の低い油は水噴霧のみでは完全消火は不可能である。ガソリン火災については、噴霧注水の実験結果から、ガソリン火災一平方メートル毎分六リットルの割合で放水すれば火災の燃焼速度、拡大速度及び発生熱量を抑制することができる。水噴霧設備は本来、初期消火の段階で作動すべきものであり、通報設備との連動により、自動的に制御放水されることを原則とし、したがって、制御装置は自動式を建前とするが、検知器の信頼性、火点の移動による放水区画の適正選択等を考慮して、手動装置を併置し、管理者等が火災を確認し適切な処置を行いうるよう管理事務所等へ手続装置を設けることが望ましい。貯水量は、一つの放水区画に対して、床面積一平方メートルにつき毎分六リットルの放水量で約四〇分間放水するものとすれば水噴霧用の貯水量は約一〇〇立方メートルが必要となる。

(三) 設置要領

第一審被告は、高速道路調査会が昭和四六年九月に従来の研究成果、設置経験等をもとに作成発表した「トンネル防災設備設置指針」が第一審被告のトンネルの条件を考慮していない点があるためこれを是正する要があり、また、全体の内容を検討するため、トンネル防災設備設置指針検討委員会を設置して検討し、その結果を昭和四七年七月に第一審被告の設置要領としてまとめた。その内容のうち注目すべき事項の概略は、以下のとおりであるが、放送設備については、ラジオ再放送設備が昭和四七年に東名高速道路の都夫良野トンネル(長さ一六八八メートル)に、昭和五〇年に中央自動車道の恵那山トンネル(長さ八四八九メートル)にそれぞれ設置され、以後運用されてきており、その設置運用にはさほどの経費を必要としない。

(1) 高速道路で延長一五〇〇メートル程度以上のトンネル内には水噴霧装置、給水栓等を設けることが望ましい。

(2) 水噴霧設備制御方式について以下のような詳細な指針が打ち出された。

「放水制御方式は自動式と手動式に分類される。自動式とは検知器の作動信号などにより消火ポンプの起動及び火災発生地点の自動弁の「開」を自動的に行うものである。この方式は二個の検知器の作動又は火災時に異常値を示す他の機器との組合せ作動などにより自動的な確認が得られる場合に限定される。手動式とは火災現場で手動弁にて「開」にしたり、あるいは検知器の作動信号、非常通報機及び非常電話などにより火災の発生を知り、ITVなどで確認してから当該放水区間に放水する方式である。手動式放水制御方式は、その系統を火災通報、火災確認、放水指令に分類することができる。火災通報には、火災検知器、非常電話などが考えられる。火災確認には、ITV、非常通報機、非常電話などが考えられる。放水指令には消火ポンプを自動起動させた後、火災検知器などによって放水区画を選定した当該自動弁のロック解除操作をしたり、又は消火ポンプを手動起動させた後、火災受信盤による放水区画選択押ボタンの操作、及び火災発生地点での手動による開放操作などが考えられる。火災検知器→ITV→自動弁ロック解除(管理所)という方式は、火災の発生及び火災現場を検知器の作動によってとらえ、自動的に消火ポンプを起動し、開放すべき自動弁の選択を完了するが、この時点で管理者が火災を確認してから、ロック装置を解除し、放水開始するものである。したがって、この案は管理者が常駐し、ITVなどによって火災の発生を確認できる場合には、最も信頼性の高いものと考えられる。水噴霧設備は本来、通報施設からの信号を受けて放水区画を自動的に選択し、制御放水すべきであるが、火災地点の移動による放水区画の人為的な切換などを考慮して手動式制御方式を併置することを原則とする。同時に、水噴霧設備を設置するトンネルにあっては、ITVなど、火災の発生を確認すべきものを設けるように計画、配慮すべきであろう。」

(3) ITV設備については以下のような規定が設けられた。

「トンネル内の交通流監視、交通事故・火災事故の早期発見、火災地点の確認等のためITV設備が設置されることが望まれる。特に水噴霧設備を設けているようなトンネルにあってはITV設備を設けるべきであろう。ITV設備の設置に当たっては以下の点に留意すべきである。ITVカメラは一五〇ないし二〇〇メートルの間隔で設置する。ITVカメラで視認できる範囲はトンネル内部の照度等の条件のほかに、カメラレンズの焦点距離が重要な要素となっている。ITVの画像は点(画素という。)の集合で構成されているため、カメラ中の撮像管上にピントを結んでいる画像がある程度小さくなると画のキメが荒くなるため画像の判別はつかなくなる。このため広い範囲にわたって見ようとすると長焦点のレンズを使わなければならず、また、こうすると画像の重なりや手前が見えなくなるという欠点がでるため、この妥協点としてレンズ焦点距離五〇ないし七〇ミリメートル、カメラ間隔一五〇ないし二〇〇メートルがとられる。一方通行のトンネルでは、カメラの向きは走行車を追う向きとする。カメラ、モニター、伝送線路などは保守負担の軽いものでなければならない。トンネル内は煤煙が多く、光学系が汚れやすいし、電子部品にとっても悪い環境なので、画像の不鮮明や機器障害が多いことを覚悟せねばならない。カメラの掃除、点検、修理をトンネル内で行うことは危険かつ厄介なことなので特に保守ができるかぎり軽減されるよう計画しなければならない。」

(4) 放送設備についても、トンネル内の状況により必要に応じてこれを設置することが望ましいとして、以下のような規定がおかれた。

「本装置は、非常事態の発生を出来る限り広範囲に徹底させるため、音波及び電波により運転者に伝えるものである。音波の場合はトンネル内にスピーカーを設置するのだが音の残響のため明瞭度が落ちやすいのでスピーカー一個当たりの音響出力はある程度しぼり多数のスピーカーを設置しなければならない。スピーカーの設置間隔は最大二〇〇メートル、一個当たりの電気入力は標準一〇ワット位が適当である。電波の場合はトンネル内にケーブルを張り各放送電波をトンネル内に再送信するのだが、トンネル進入以前にどの放送局を聴取していても情報伝達が可能なように付近で通常聴取できるすべての放送局の周波数を備えておく必要がある。」

(四) 追加設計要領

第一審被告は、昭和五四年六月八日、昭和四四年一二月三日付け第一審被告の設計要領に「トンネル防災設備」を追加し、同日から実施した(第一審被告の追加設計要領)。その内容のうち注目すべき事項の概略は、以下のとおりであった。

(1) 「トンネルの防災設備の規模を定めるもととなる条件としては、トンネルの延長、線形、設計速度、交通量、幅員構成、換気方式、照明、交通形態及び管理体制などがあげられる。設置計画にあたっては、これらの条件を総合的に検討評価して、そのトンネル火災事故の頻度と規模を求め、これに応じた防災システムを設計するのが望ましいと考えられる。しかし、これらの諸条件をすべて対応させて、その規模を定めることは、大へん複雑であり、かつ困難であるから、火災事故と交通事故の両面から検討して設備規模を変化させていくのが妥当と思われる。」

(2) トンネルの防災設備の種類は、①通報設備、②非常警報設備、③消火設備、④その他設備(排煙設備、避難設備、非常駐車帯、誘導設備、非常用電源設備等)とし、非常警報設備として、①警報標示板、②点滅灯・警告灯、③音信号発生装置、消火設備として、①消火器、②消火栓、③給水栓、④水噴霧設備、その他設備として、①排煙設備、②避難設備、③非常駐車帯、④誘導設備、⑤ITV設備、⑥非常用照明設備、⑦非常用電源設備(自家発電設備、無停電電源設備)とされ、次のように規定された。

ア 誘導設備は、緊急時にトンネル内の利用者に避難設備、通報設備及び消火設備の場所及び方向を示し、人をそこまで誘導するための設備であり、避難連絡坑の位置を示す表示板と音声で伝達する拡声放送設備やラジオ再放送設備により情報を伝達する方式とがある。

イ ITV設備は、通報設備からトンネル内の異常事態発生の知らせを受け、その地点のカメラを駆動し、水噴霧、避難誘導などを行う場合のトンネル内の状況を把握し、適切な処置を行うためのものであり、平常時のトンネル内交通状況の監視にも利用できる。ITV設備について、火災検知器、手動通報機及び非常電話からの信号による自動起動とし、これらからの信号による自動起動は、モニターを含めた全体の電源をオンにするとともに、自動的にその地点のカメラを選択し、管理事務所に警報を発するものとし、そのためにカメラは余熱式とする。

ウ 水噴霧設備は、トンネル管理者の遠隔操作により火勢の制圧及び延焼防止のために迅速な初期対策がとれる利点があり、消火活動、避難、救助活動を容易にするための設備で、作動させるにはITVでトンネル内状況を確認する必要があり、自動通報機と組み合わせた区間放水を行うのが望ましい。なお、設置に当たっては、過去の実施例や経済性等を十分考慮して決定する必要があるが、防災対策が特に重要と思われる長大トンネルや、特に交通量の多いトンネルなどに設ける必要がある。水噴霧の放水は、火災の発生を火災検知器の作動によってとらえ、受信機で自動弁の選択及び消火ポンプを起動させ、管理者がITVにより火災地点を確認してから自動弁のロックを解除し、放水する方式が一般的である。自動弁の開放操作は、管理事務所、トンネル換気所及びトンネル内で行えるようにし、火災地点の移動等にも対処できるようにしておく必要がある。

(3) 設備相互間の関連

防災機器は次の運転機能を有することを原則とする。「(1)非常警報設備の操作は、ITV等の設備を設置する場合には、遠方監視制御設備を介して管理事務所から行い、設置しない場合には、通報設備との自動連動又は非常電話や巡視員からの連絡を受けて管理事務所から遠方操作を行うものとする。(2)トンネル内水噴霧設備の放水区画操作は受信盤では全区画を検知器との自動連動及び手動操作にて行うことができるものとする。ただし、管理事務所からは、原則として、操作は行わないものとする。(3)消火栓設備の加圧ポンプの起動は消火栓箱内に設けた起動スイッチの操作により行う。」。また、「非常警報設備の操作はトンネル内の状況を確認の上行うことが望ましいが、監視設備を設置しない場合には、自動又は手動通報機と自動連動して「進入禁止」「火災」又は「進入禁止」「事故」等の表示を行うものとする。ただし、管理事務所から遠方手動操作も行える必要がある。管理事務所から水噴霧設備の放水区画を全て制御できることが望ましいが、遠方監視制御設備が非常に高価になるので、放水区画の操作は検知器と自動連動にて、設定するものとする。ただし、長大トンネル及び海底トンネル等の特殊な場所は、管理事務所から遠方手動にて放水区画の操作を行えることが望ましい。消火栓設備・水噴霧設備及びダクト冷却設備の加圧ポンプは消火栓箱の起動・停止スイッチあるいは自動通報機との連動にて作動する機構とし、管理事務所からの起動操作は原則として行わないものとする。ただし、坑口給水栓等の使用後停止操作を怠った場合のポンプ保護や火災検知器の誤作動による放水を早急に停止できるように管理事務所から遠方にて停止操作ができるものとする。」と規定された。

3  本件事故後の設備改善等について

本件事故後、第一審被告は、内部に学識経験者及び関係行政庁職員らからなる日本坂トンネル技術対策検討委員会を組織し、復旧方針及び工法の検討を諮問した。その検討結果等に基づき復旧工事が行われ、防災設備については、①給水栓がトンネル坑口の二箇所のほかに、トンネル内の一〇箇所にも設置され、②受水槽の容量が一七〇トンから三三〇トンへと増え、③非常口誘導灯が一六箇所に新設され、④小坂トンネル入口に一面あった可変標示板が増え、小坂トンネル入口に二面、日本坂トンネル入口に一面設置され、⑤トンネル内ラジオ再放送設備が新設され、⑥水噴霧装置につき同時放水区画が二から三に増え、⑦水噴霧装置自動弁の回路等が耐火ケーブルに改められ、⑧消火器の使用に支障のないように消火栓の収納が観音扉式から前倒し式に改められ、⑨ITVが余熱式となり、カメラと連動する方式に改められるなどの改善が施された。また、消防署への通報体制については、基本的には上り線、下り線の区別により焼津消防又は静岡消防のいずれかに通報するという従前の取扱を維持しながらも、右によれば通報を必要としない消防署に対しても参考連絡をするようにした。

四本件トンネルの瑕疵の有無

1  必要とされるトンネルの安全体制

以上に認定したように、本件事故より相当以前である昭和四〇年代後半において、東名高速道路は、わが国における重要な産業道路となり、交通量も著しく増大し、通行する車両及びその積載物も多種多様となり、易燃物等の危険物を輸送する車両の数も増えていたのであり、かかる高速道路上に設置された長さ二〇四五メートルもある長大な本件トンネル内においては、車両の衝突等から火災が発生することはかなり高度な蓋然性で生じうる事態であり、しかも、一旦火災が発生するときには、多数の後続車両の乗員等の生命、身体又は財産等を侵害する危険がきわめて高いことが明らかであって、本件トンネルの設置管理者である第一審被告においては、これらを予見し又は容易に予見することができたものである。

そして、高速道路が、有料道路であって、一般道からは自由に進入できないようにフェンス等の遮蔽物で区別され、原則としてインターチェンジから進入できるだけであり、高速走行を可能とするために高架あるいはトンネル等の施設を多く用いていることは公知の事実であって、高速道路上ことに長大なトンネル内において発生する事故等に関する情報については、第一審被告が主としてこれを収集することができる立場にあり、高速道路の利用者はもとより消防及び救急の職務権限を有する消防署並びに道路上の交通規制等の職務権限を有する警察署等の機関も第一審被告の収集する情報に依存せざるをえない立場にあることは明らかである。したがって、第一審被告としては、発生する火災を可能な限り初期の段階で消火し、その延焼を防止するために、自ら合理的かつ妥当な物的設備を設け、人的配備をすることを要するのみでなく、第一審被告のなしうる消火及び延焼防止の能力にはおのずから限界があるのであるから、トンネル内の安全を確保するため、消防署及び警察署等の他の機関の迅速な活動を可能ならしめるように、火点の位置、火災の状況及びトンネル内の交通状況等について、早急に的確な情報を収集し、これを迅速に提供しうる組織を整えるとともに、火災が発生したときには、トンネル内に進入しようとする車両及び既にトンネル内に進入した車両の運転者らに対し、火災が発生したことや避難の方法についての的確な情報を迅速に提供し、かつ、車両がトンネル内に進入するのを阻止するための強力な警告をするための物的設備を設け、人的配備をする等のトンネルの安全体制を整備することが必要であったというべきである。

そして、前記の法令及び行政上のトンネルの設置基準並びに第一審被告の暫定基準、標準仕様及び設置要領が定められた経緯及び弁論の全趣旨によると、これらがそれぞれ定めたトンネルの防災設備等は、いずれも昭和四〇年代において技術的に実施可能となっていたものであることが認められるところ、本件トンネルの供用開始時に既に右暫定基準等に基づき設置された物的設備等については、第一審被告として、前記のような防災目的に沿った合理的運用及びそのための体制の整備を図る必要があることはいうまでもない。また、供用開始時には設置されていなかったが、その後の技術の進歩等により標準仕様及び設置要領にその設置が定められるようになった物的設備等については、これをすべてのトンネルに直ちに設置しなければ法律上要求される安全体制を欠くことになると一律にはいえないけれども、他方、その設置基準の定めが原則的、標準的な性格のものであるからといって、これを設置するかどうかが専ら第一審被告の都合に委ねられてよいものではなく、諸般の事情からみて防災目的を達成するために高度に有用であると判断される設備については、速やかにこれを設置して合理的な運用を図る必要があるものというべきである。

本件事故当時における本件トンネルの防災設備の設置及び運用が以上に述べたところを下回っていた場合には、長大トンネルにおいて火災の発生又はその延焼を防止し、右火災及び延焼によって生じる後続車両の乗員等の生命、身体又は財産等を侵害する危険を回避するための合理的かつ妥当なトンネルの安全体制を欠いていたものと認めるべきであり、本件トンネルは長大トンネルが通常具有すべき安全性を欠如し、その設置・管理に瑕疵があることになると解するのが相当である。このことは、第一審被告が高速道路上の火災につき消防法上特別の地位に立つものでないこと、また、トンネルの安全体制は、道路管理者たる第一審被告のみによって確保されるものではなく、道路管理者、道路利用者、警察、消防各機関等が一体となって確保しなければならないものであることによって、なんら左右されるものではない。

2  消火設備について

本件事故当時、本件トンネル内には第一審被告の暫定基準等に基づき消火設備として水噴霧装置、消火栓及び消火器並びにその一部の作動にかかわるITVが設置されていた。トンネル火災においては初期消火がきわめて重要であり、その目的を果たすためには、右消火設備が一刻も早く有効に機能するように運用される必要がある。

(一) 第一審原告らは、本件事故の際、水噴霧装置が作動しなかった旨主張するが、前記認定を総合すると、本件追突事故の発生が午後六時三七分ころ、本件車両火災の発生が同三七分ないし三八分ころ、火災感知器の感知が同三九分ころ、ITVモニターに本件車両火災現場が映し出されたのが同四〇分ないし四一分ころ、水噴霧装置の放水が開始したのが同四二分ころであると認められる。本件車両火災時に現場にいた静岡事件第一審原告澤入、同大石、訴外新居及び同梶浦らはいずれも水噴霧装置から放水されたことは目撃していないが、これは放水が開始される前に避難を開始し、現実に放水が開始したときには既に放水区画外に避難してしまったためであると考えられ、第一審原告らの右主張は採用できない。

また、第一審原告らは、水噴霧装置の放水区画が火災感知器の感知した順に連続した二区画に制限されていたこと及び消火栓のホースの長さが三〇メートルしかなかったのは問題であると主張する。しかし、二区画の水噴霧装置で合計七二メートルの範囲内で一斉放水が可能であったこと及び消火栓が四八メートル間隔で設置され火点に近い消火栓を使用すればホースの届かないところはないことを考えると、これらを瑕疵ということはできない。

(二) さらに、第一審原告らは、水噴霧装置及び消火栓について、コントロール室がITVで火災を確認するまで作動しない仕組みになっていたことが瑕疵であると主張する。たしかに、もともとは、水噴霧装置は火災感知器が反応して自動的に作動するものであり、また、消火栓は通行者らによって開閉弁が開けられれば作動するものであったところ、いずれについても、コントロール室においてITVにより火災発生を確認し水噴霧装置又は消火ポンプの鎖錠を解放して初めて放水されるようになっていた。このような鎖錠システムは、水噴霧装置については、火災感知器が誤作動する可能性があって、その場合には側壁上部から急激な放水がなされ、通行車両にとって著しく危険となるおそれがあり、また、消火栓についても、通行者がラジエーターへの給水等のために使用した後に開閉弁を閉めないまま放置したときに大量の水が路面上に流れ出し、通行車両にとって危険となるおそれがあることから、これらの危険を避けるために採用されたものであって、それ自体の合理性を否定することはできず、これを瑕疵ということはできない。

(三) しかし、水噴霧装置及び消火栓について右の鎖錠システムの採用がやむをえない以上、第一審被告としては、火災の発生に対し、できる限り早くそれを確認し、水噴霧装置又は消火ポンプの鎖錠を解放できるようなITV等の物的設備の設置及びその合理的運用の整備をしておく必要があったといえる。ところが、本件トンネルのITVは、前記のとおり、スイッチを入れるとすぐに画像が出る余熱式ではなかったため、画像が出るまでに約四〇秒かかり、また、火災感知器と連動していなかったためカメラを切り換えて火点を探す必要があった。このような機器の作動状況の下においては、火点を早期に発見し、初期消火の目的を実現するためには、ITVの画像を常時映し出す状態にしておくこと及びグラフィックパネルに表示された火災の発生場所に対応するカメラに速やかに切り換えること等の機器の運用及び係員の訓練が必要であったものというべきである(ちなみに、第一審被告の追加設計要領によると、①余熱式のITVの設備と②火災感知器と連動して自動的に火点を映し出すカメラが選択されることを規定し、火点を早期に発見して初期消火の目的を実現することとしていた。本件事故当時において、右のような物的設備が設置されていなかったこと自体を直ちに瑕疵とはいえないにしても、当時設置されていた物的設備の機能を十分に発揮させるような運用及び訓練が必要であったというべきである。)。

しかるに、本件事故当時においては、ITVによる常時監視はしていなかったし、また、グラフィックパネルの表示によれば本件トンネル内の西坑口から五〇〇メートルの範囲(九番カメラないし一一番カメラで監視できる範囲)内の火災であることが判明していたのであるから、画像が出るまでに九番カメラに切り換えておくことが必要であり、また、そうすることが合理的であったのに、白石係員は、七番カメラに切り換えておき、七番カメラ次いで八番カメラで見ても火災の発生がないことを確認してから、九番カメラに切り換えて初めて本件車両火災を発見したものであり、約一分間ほどの時間的空費が発生するような運用状況にあったものである。

そして、右のような時間的空費があったために、水噴霧装置の作動が遅れ、水噴霧装置が作動した午後六時四二分ころの時点においては、本件車両火災は第二段階から第三段階に至っていた。前記のとおり、火災の第二段階になったのは午後六時三九分ころであり、また水噴霧装置でガソリン火災を完全に消火することはできないものであるから、右の時間的空費さえなければ水噴霧装置の放水のみで消火することが可能であったと断定することはできないけれども、一刻を争う初期消火の遅れにより、火勢の抑制が多少とも困難になり、延焼の速度を落とす機会が失われた可能性は否定できないというべきである。また、消火栓及び消火器は、消防隊が到着する前の段階で通行者らがこれを使って消火活動を行うことが期待されているものであり、本件火災の際には、第一段階又は第二段階の時点で、静岡事件第一審原告大石、訴外新居らが消火栓のホースを引き出して消火活動をしようとしたが、当時の時間的経過からして消火ポンプの鎖錠が解放されておらず水が出ない状態にあったものである。このことは、前記のとおり、同人らが現場から退避した後になって水噴霧装置が作動したことからみて明らかである。

したがって、本件トンネルの水噴霧装置及び消火栓の作動にかかわるITVの運用については瑕疵があったと判断される。

第一審被告は、トンネル内火災事故の発生件数そのものが少なかったうえ、当時のITVに使用されていた撮像管(ビジコン)の平均寿命が約三〇〇〇時間であり、常時スイッチを入れて使用すると約四か月で取り替えなければならず、その度に交通規制をする必要が生じるので、そのことをも考慮して必要に応じてITVを使用する運用にしていたものであり、常時使用の運用をしていなかったからといって瑕疵があるとはいえない旨主張する。しかし、トンネル内車両火災の件数がそれほど多くないとしても、火災が発生した場合の早期発見、初期消火の重要性を考えると、火災の早期発見体制を整えておくことはきわめて大切であるといわなければならない。また、<書証番号略>によると、当時のITVの撮像管が右主張のとおりのものであったことが認められるけれども、撮像管を更新するに当たり、どのような具体的作業が必要であって、そのためにいかなる交通規制をし、利用者にいかなる影響を与えるのかは証拠上定かでなく(ITVのテレビカメラは、追越車線側の側壁に設置されており、仮に取替作業のために本線に交通規制をするとしても、一時的に追越車線のみを規制する程度で足りると考えられる。)、また、仮にある程度の交通規制を伴うことがあるとしても、トンネル内火災の重大性とその早期発見、初期消火の重要性に照らすと、道路の維持管理上やむをえないところであり、それを理由として、他の適切な代替策を講じることがないままで前記のような態様によりITVを使用する運用を是認することはできない。

(四) 次に、消火器は、消火栓と一緒に格納箱に収納されていたが、その格納箱は消火栓と消火器の格納を区分しそれぞれにつき専用扉が設けられていた。そして、消火栓の格納部分の扉はいわゆる観音開きであり、この扉を開くと左側の消火器の格納部分が全く覆い隠されるような構造となっていた。したがって、火災の発生の際に最初に格納箱に到着した者が消火栓を使用することを選択して消火栓の格納部分の扉を開けると、次に到着した者が消火器を探してもその発見が困難となり、また、消火栓ホースを追越車線の壁に沿って消火器が格納されている方向に引っ張り出したとすると、消火栓の格納部分の扉がホースに邪魔をされて閉じることが困難となり、したがって消火器を使うことが事実上できなくなるものであった。この点は、使用者が冷静沈着に行動することを前提にして考えれば、その場で対応できないほどの欠陥とはいえないかもしれないが、これらの設備は消火活動の経験のないのが普通である通行者らによって使用されることを予定したものであり、トンネル内火災の発生という緊急事態に遭遇した通行者らがとかく狼狽しがちである状況を前提にすれば、そうした通行者らの利用しやすい構造になっていないことは、無視しえない欠陥というべきである。本件火災の際に、静岡事件第一審原告大石、訴外新居らが消火活動を行おうとして消火栓のホースを引き出したが、その時点で事実上消火器を選択する余地はなくなったことになる。

この点において消火器の収納方法にも瑕疵があったと判断される。

(五) そして、既に認定した事実関係に照らすと、コントロール室においてITVにより早期に火災の発生が確認されて水噴霧装置及び消火栓の鎖錠が解放されるとともに、消火器の本来の機能が十分に発揮されるような設備状況になっていたとすれば、水噴霧装置は一分近く早く作動していたであろうし、火災の第一段階又は第二段階において消防活動に従事した静岡事件第一審原告大石及び訴外新居ら通行者によって消火栓による放水及び消火器の使用が可能になり、その機能が発揮されていたであろうから、これらの消火能力の相互補完の効果により右の段階で少なくとも火勢を抑え、火災が次の段階に進むのを遅らせ、この間に後記のとおり焼津消防の現場到着がもっと早く行われたならば、本件延焼火災に至るのを防止しえたものと推認することができる。第一審被告は、本件で初期消火が成功しなかったのは、消火設備に瑕疵があったためではなく、むしろ事故原因車及び後続車の乗員らに期待される適切な初期消火活動が行われなかったことによるものであると主張するが、前記の認定に照らせば、消火活動を試みた乗員らの行為の不適切さに帰責するのは妥当な見方とはいいがたく、到底採用しえないところである。

3  消防署への通報体制について

(一) 第一審原告らは、管制室の梅田係員が静岡消防に対してした通報の際に火点の位置を焼津側であるのに静岡側であると誤って通報したと主張する。しかし、前記のとおり、右誤報の事実は認められない。

(二) 次に、第一審原告らは、管制室から焼津消防に対する出動要請が遅すぎたこと及び本件トンネル内の状況等について消防署への通報が不十分、不適切であったことに基づいて、第一審被告の消防署への通報体制に瑕疵があった旨主張をする。

前記のとおり、管制室が焼津消防に対して出動要請をしたのは午後七時一八分ころであったと認められ、管制室に本件事故発生の通報があった午後六時三九分から約三九分経過していたことになる。

ところで、管制室が静岡消防に通報したのは、静岡市と焼津市との間の協定及び静岡市消防長と焼津市消防長との間の覚書によって、静岡インターチェンジ・焼津インターチェンジ間については上り線を焼津消防、下り線を静岡消防が担当するとの取扱があり、第一審被告にもその通知がされており、管制室が右取扱に従ったからであった。静岡消防の位置は静岡インターチェンジ側、焼津消防の位置は焼津インターチェンジ側にあったから、本線上の車両の通行が確保されている状態を前提にすれば、右取扱は合理的と考えられる。そして、本線上の車両の通行が停滞した場合でも、緊急車両は、平場においては路側帯を走行することができるし、路側帯のないトンネル内においても停車車両にそれぞれ壁面側に寄ってもらってその間を通ることができるから、右取扱をもって直ちに不合理なものということはできず、第一審被告が右取扱に従うことも同様に一般的には不合理であるということはできない。

しかしながら、緊急車両が右のように路側帯又は停車車両の間を常に通行することができるとは限らず、特に本件トンネルのような長大トンネル内において車両火災が発生すると、後続車両が渋滞し、その場合には、トンネル内に路側帯がないことから火災現場まで担当消防署の消防車が到達するのは困難か又は著しく遅延する蓋然性が高く、他方の消防署に応援を依頼する必要が生じる。右協定及び覚書にも、いずれか一方から消防業務(消防及び救急業務の実施並びに処理)の要請を受けたとき又は事故を覚知したときは直ちに出場する旨あるいは事故の状況により相互に応援しあうものとする旨の規定が設けられていたのであるから、両消防署とも、右の必要性が生じることを認識していたものと思われる。そうすると、管制室が、一方の消防署に対して、他方の消防署の応援を依頼した方がよいと判断できる程度の情報を提供すれば消防署間で連絡調整したであろうし、また、みずからその必要性を示して双方の消防署の出動を依頼すれば、その依頼に応じたものと考えられる。

本件トンネル内の車両火災の状況及び後続車両の渋滞状況等については、主として第一審被告がこれを収集把握し消防署等に提供できる立場にあり、情報収集のための設備として非常電話及びITVが設けられ、とりわけコントロール室がITVによって観察する方法は、直接火災現場の状況が観察できるだけでなく、カメラを切り替えることによって後続車両の渋滞状況等を確認することができ、しかも、専任の担当者の観察及び表現による情報であって正確性を期することができるものであった。そして、消防署等外部に通報しうる管制室とコントロール室との間は、指令電話で迅速に情報の交換をすることができるような物的設備があった。本件の場合は、火点は本件トンネル内の焼津側にあり、トンネル内には車両が渋滞しており、消防車等が通行できる路側帯がなく、東坑口からでは本件トンネル内の火点に到達できないような非常事態が発生していたのであるから、このような非常の場合にまで前記取扱に機械的に従って行動するのは妥当でないといえる。第一審被告としては、前記取扱に従って担当消防署に通報するのみではなく、早期にITV等を利用して火災の状況及び後続車両の渋滞状況等に関する情報を収集し、これを担当消防署に提供するほか、臨機に他の消防署にも直接情報を提供し又は出動を要請するような体制を整備しておく必要があったというべきである。

ところが、第一審被告においては、前記取扱に従っていずれかの消防署に通報するほかは、火災の状況及び後続車両の状況等に関する情報を収集し消防署に通報することに関し、内部的に何らの取決めもなく、本件事故の際にも、コントロール室は、火災発生を確認し管制室にその旨の第一報を入れたほかは、ITVにより後続車両が二列に停止し乗員が東坑口に向かって避難するなど後続車両の渋滞を推測させる状況を確認しておりながら、それを管制室に連絡せず、また、その後の火災状況や後続車両の渋滞状況等について右以上の詳細な情報の収集に当たった形跡はなく、逆に管制室がコントロール室に問合せをしたような状況もない。その結果、管制室が焼津消防に出動依頼をするまでの間は、渋滞の状況及びそれによって消防車等が火点に到達できない危険があることの情報が静岡消防に伝えられなかった(静岡消防が火災現場に到達できなかったことは前記のとおりである。)。

以上のような事実関係並びに前記の管制室と静岡・焼津両消防間の交信の経過及び内容に照らすと、第一審被告が静岡消防に提供した情報は、火点の位置についてはともかく、出動した消防隊が本件トンネルの東坑口から進入して火点の位置まで到着できるかどうかに関する十分な情報を提供したとは認められず、そのことによって静岡消防と焼津消防とが消火活動について臨機に適切な対応をする機会を失わせることになり、また、自ら焼津消防に出動を依頼したのは前記のとおり午後七時一八分ころであったから、消防署に対する通報ないし情報の提供については、その内容の点においても迅速性の点においても、きわめて不十分、不適切であったというほかなく、その原因は、右情報の収集及び消防署への提供のための通報体制の整備に不備があったためであると判断される。なお、第一審原告らは、ITVのカメラの設置位置が低く(道路面から3.2メートル)、かつ進行方向しか映らず、設置台数も少なかった(二〇〇メートル間隔)ため、正確な状況の把握ができず、消防署への適切な通報ができなかったものであると主張するが、右に認定した通報の不十分、不適切との関係においてITVの設置方法又は構造そのものに瑕疵があったとまでは認めることができない。

第一審被告は、道路管理者は、消防当局から情報を求められたときにこれに応じることはあっても、消防当局の行う消防活動に介入したり、消防当局に指示することになるような情報を積極的に提供する立場にはない旨主張するが、その一般論としての是非はさておくとしても、消防の適切な活動は消防当局が火災の状況、現場までの交通状況等について迅速かつ正確な情報を入手することによって初めて可能になるものであり、少なくとも本件のような緊急事態の場合における情報提供の不十分さを是認しうる論とはいいがたい。

(三) そして、前記のとおり焼津消防が本件追突事故現場の火災について午後七時一八分ころに通報を受けてからその消防隊が右事故現場に到着して放水を開始したのが同四一分ころであり、その間約二三分であったことに照らすと、焼津消防が静岡消防と同時に又はこれより多少遅れて出動することができたような迅速かつ適切な通報ないし情報提供が行われていたとすれば、水噴霧装置等の初期消火手段に前記のような瑕疵がなかった場合にはそれらの手段により本件延焼火災を少なくとも遅らせることができたといえることと相まって、本件延焼火災の発生前に焼津消防が消火活動を開始することができ、本件延焼火災の発生を防止しえた可能性があったものと推認することができる。

4  警報設備について

(一) 第一審被告の暫定基準等に基づき警報設備として可変標示板及び消火栓上の赤色灯が設置されていた。可変標示板にはその上部に赤色と黄色の点滅灯が付いていた。火災発生時における「進入禁止」「火災」との可変標示板の表示及びそれに伴う上部の赤色灯の点滅は、コントロール室においてITVにより火災発生を確認して初めて操作されてなされるものであり、また、消火栓上の赤色灯も、右同様にITVによる火災発生の確認がなされて消火ポンプの鎖錠が解かれ、開閉弁が開けられて点滅するシステムとなっていたが、ITVによる火災確認については前記のとおり一分ほど遅れる運用状況にあったから、それを前提として右のような警報設備も、高速走行車両に対して一刻でも早く事故発生等を知らせるべき設備として迅速性に欠ける点があったといわざるをえない。

(二) 次に、可変標示板の設置位置は、前記のとおり、本件トンネルの東坑口から東京寄り五三五メートルの地点で、その間に長さ二六八メートルの小坂トンネルがあり、同トンネルの東坑口からさらに東京寄り二一〇メートルの地点で、本件追突事故現場からは約二一六〇メートル東京寄りの地点であり、本件可変標示板は「小坂トンネル」「長さ270m」と書かれた道路標識の上に設置されていた。このような本件可変標示板の設置位置及び道路標識からすると、本件可変標示板の表示は、運転者にとっては小坂トンネル内についてのものと誤解されやすかったのみならず、同トンネルの長さが二六八メートルであったため、仮に本件可変標示板に「進入禁止」「火災」の表示が出ていたため減速・停止をしようとした運転者も同トンネル東坑口からみると同トンネル内に火災が発生しているかどうかがわかるから、同トンネル内に火災が発生していないと認めた運転者は再加速して進行することもありうる。したがって、本件可変標示板の右表示は、運転者に対し、本件トンネル内において火災が発生したこと及び本件トンネルに進入禁止の措置がとられたことの表示としては不適切なものであったというべきである。

(三) さらに、本件可変標示板の設置位置の関係では、本件トンネル内で事故等が発生した場合には、事故地点から本件可変標示板の表示を高速道路を走行する車両の運転者が認知しうる終点(以下「本件可変標示板認知点」という。この地点は、<書証番号略>によると、本件可変標示板の設置地点から三〇メートル東京寄りの地点であると認められる。)までの間の車両の運転者はその表示を見る機会は全くなく、また、実際に表示が出るまでの間に本件可変標示板認知点を通過してしまう車両の運転者もその表示を見る機会はなかった。本件事故の際には、本件追突事故の発生から本件可変標示板の点灯までの間に少なくとも約三分間の時間が経過したから、後続車両の先頭車両である澤入車から本件可変標示板に表示が出るまでに本件可変標示板認知点を通過してしまった車両は、本件トンネル内で追突事故及び車両火災が発生していることを知らずに本件トンネル内に進入してしまったものである。このような通行車両に対する警報措置としては、消火栓上の赤色灯があったけれども、これについては、前記のようなITV運用上の欠点があるほか、コントロール室により消火ポンプの鎖錠が解放され、本件トンネル内の通行者等によって消火栓の開閉弁が操作されなければ作動しえないものであり、確実性が劣っていたといえる。

(四) ところで、高速道路においては、車両は高速度で走行し、停止を求められることを予想していないのが普通であるから、非常の場合に運転者に対し停止措置をとるべきことを期待するためには、強い警告力を有する措置を講じることが必要となることはいうまでもない。

第一審被告の標準仕様及び設置要領によれば、トンネルについての非常警報装置としては、高速道路を高速で走行する車両の運転者が視覚に訴える表示の意味・内容を視覚によって認知しうる能力には限界があるから、視覚のみに訴える表示のみでは非常事態発生の警告力としては不十分であるとの認識の下に、運転者の聴覚に対して強制的に右事態の発生を訴えるサイレンの吹鳴又はトンネル内の放送設備による警告の方法が採用されたものである。ところが、本件可変標示板にはサイレンが設置されていたにもかかわらず、作動しない措置がとられ、しかも、それに代わりうる合理的な代替措置が何もとられていなかった。また、本件トンネル内にはサイレン設備がなく、放送設備についても、昭和四七年都夫良野トンネルに、昭和五〇年恵那山トンネルにそれぞれラジオ再放送設備が設置されて運用され、その経費も過大ではなく、本件トンネルにも昭和五四年度予算で設置される予定であったことなどからして、本件事故当時既にトンネル内警報設備として高度に有用であると認められる状況にあったもので、速やかにこれを設置すべきであったにもかかわらず、これを欠いていた。

第一審被告は、トンネル内のラジオ再放送の警告手段としての効用は消火栓上の赤色灯の点滅等とさしたる差異はなく、右赤色灯の点滅を無視してトンネル内に進入する車両を制する効果は期待できないと主張するが、聴覚に訴える警告の効用を軽視することはできない。

(五) 本件トンネルの警報設備は、防災目的を果たすうえで右のとおり不十分、不適切な点があったのであり、瑕疵があったと判断される(なお、第一審原告らは、本件トンネルの東坑口に信号機が設置されていなかったことをも瑕疵と主張するが、採用できない。)。

そして、本件トンネルの内外において、運転者が、本件可変標示板の表示、消火栓上の赤色灯の点滅のみならず、サイレンの吹鳴又はラジオ再放送設備による非常事態の発生の警告を受けたときには、本件トンネル内に進入するのを中止し、既に進入していた車両は後退するなどして本件トンネル外に出ることも可能となり、本件延焼火災の被害から免れることができたものもあったと推認することができる。

5  その他の瑕疵について

第一審原告らは、以上で検討したほかにも、消火設備(消火栓の構造、消火ポンプの再起動装置の設置、消防用給水栓の設置、消火水量の不足、防災機器のケーブルの耐熱性)、退避措置、換気設備、防災計画等に瑕疵があったことを主張するが、前記認定の事実に照らしていずれも採用することができない。

6  まとめ

以上のとおり、本件トンネルの防災設備及びその運用は、①水噴霧装置及び消火栓の作動にかかわるITV運用の遅延並びに事故原因者又は通行者による初期消火手段の機能の不完全、②消防署に対する情報提供の遅延及び不足、③後続車両の運転者に対する情報提供の不十分及び遅延並びに警告力の不十分等をきたす状態にあったものであり、長大トンネルとして通常具有すべき安全性を欠如していたものというべきであり、この安全性の欠如と本件延焼火災により第一審原告らが被った損害との間には相当因果関係のあることは、既に説示したとおりである。

したがって、第一審被告は、国賠法二条一項に基づいて、第一審原告らが被った後記損害を賠償すべき責任があるというべきである。

五第一審被告の責任の減免の主張について

1  第一審被告は、本件トンネルの設置管理に瑕疵があるとしても、本件追突事故関係者らの過失と比べて本件延焼火災に対する寄与度は少ないから、それに応じて第一審原告らに対する第一審被告の損害賠償責任は軽減されるべきである旨主張する。

本件事故について本件追突事故関係者等にも過失があるとすれば、第一審被告との共同不法行為が成立し、それによって生じた損害につき第一審被告と本件追突事故関係者等とは不真正連帯債務を負う関係にあるところ、本件事実関係のもとにおいては、これについて第一審被告の寄与度を斟酌して責任の軽減を図らなければ衡平に反するとの特段の事情は認められない(高速道路の長大トンネル内での事故の発生がある程度不可避なものであり、本件のような火災事故が発生することも第一審被告において予見することができたと認められる以上、これを防止する責任は第一次的に設置管理者たる第一審被告が負うべきものであり、事故関係者の責任との軽重を単純に比較するのは適当でない。)。したがって、第一審被告の主張は失当である。

2  また、第一審被告は、第一審原告らの中には、本件可変標示板の表示を見ながら車間距離もとらず、本件トンネル内に進入していったものがあり、そのような第一審原告らには危険への接近という過失があるから、当該第一審原告らに対する第一審被告の損害賠償責任は減免されるべきである旨主張する。

たしかに、原審(静岡)における静岡事件第一審原告堂原勉本人及び同ナカミセ食品代表者橋ケ谷金善の各供述によれば、右第一審原告らの被害車両の運転者は、本件事故の際、可変標示板「進入禁止」「火災」の表示を見ながら本件トンネル内に進入したことが認められる。そして、前記認定のとおり、右第一審原告堂原の車両は別紙図面8の(2)の番号一三六であり、同ナカミセ食品の車両は同じく番号一五四であるから、本件事故時、右第一審原告堂原の車両より後方に停車していた東京第一事件第一審原告五十嵐運輸(番号一三七)、同刈谷運輸(番号一三九)、同東礪運輸(番号一四八)、同幸伸運輸倉庫(番号一五六)、同東洋陸運(番号一六一)、同司運輸(番号一六四及び同一六六)及び同愛知陸運(番号一六五)の各被害車両の運転者も本件可変標示板の右表示を見ながら進入した蓋然性があるものと判断される。しかし、前記認定のとおり、後続車両に対する本件可変標示板の警告力はさほど大きくなく、第一審被告の設置基準によっても運転手の聴覚に訴える警報手段との併用が要求されていたにもかかわらず、これが欠如していたものである。そして、原審(東京)証人小園健次の供述によれば、高速道路を走行する車両は、可変標示板の表示よりもむしろ前方の車両の流れに従って走行するのが常態に近いことがうかがえるのであり、本件事故時における後続車両の進行状況はまさにそのようなものであったと推認される。そうだとすると、第一審原告らの一部の被害車両が本件可変標示板の右表示を見ながら進入したとしても、どのあたりでどの程度の火災が発生したのかを十分わからないまま前車が異状なく円滑に進行するのに追従したものであるとすれば、これをあまり強く非難することはできないのであり、第一審被告の本件トンネルの設置管理の瑕疵の程度をも勘案すると、右事由をもって第一審被告の責任を減免することは相当でないというべきである。

第三損害について

一損害算定の方法

1  車両損害

(一) 事故により中古車が損傷を受け物理的に修理不能となった場合の損害は、原則として、被害車両と同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の中古車の中古車市場における再取得価額によって定めるべきであるが、本件のように被害車両が事故によって焼毀し、事故当時の各被害車両の使用状態等を現実に観察して評価する方法がとれないときには、右再取得価額をレッドブック(有限会社オートガイド社が発行している「オートガイド自動車価格月報」)又はシルバーブック(財団法人自動車査定協会が発行している「中古車価格ガイド」)等の一般的資料に基づいて算定し、これを損害と認定することも許されるというべきである。

また、レッドブック又はシルバーブックに記載のない被害車両については、一旦新車として登録されて販売され、購入者によって一定期間使用された車両は、中古車とされて新車価格よりも相当程度低い価格で取引されている公知の事実に照らし、新車価格を前提に事故時までの使用期間その他の事情を考慮して相当額の減額をすることによって車両損害を認定することも許されるというべきである。

静岡事件第一審原告らは、被害車両のうちで中古車市場において再調達することが現実に不可能なものについては、当該車両の購入価格をもって損害とみるべきであるというが、その主張する被害車両について中古車市場での再調達が現実に不可能であることを認めるに足りる的確な証拠はない。

(二) 本件の被害車両の中には、販売店から割賦販売の方法で当該車両を購入し、本件事故当時その代金の全額の支払が完了しておらず、そのため自動車検査証等の所有者欄に販売店の名前が記載され、また、右売買契約において販売店に所有権を留保されていたものがあったことは、後記のとおりである。

自動車が代金完済まで売主にその所有権を留保するとの約定で売買された場合において、その代金の完済前に右自動車が第三者の不法行為により毀滅するに至ったとき、右の第三者に対して右自動車の交換価格相当の損害賠償請求権を取得するのは、不法行為当時において右自動車の所有権を有していた売主であって、買主ではない。しかしながら、右売買の買主は、第三者の不法行為により右自動車の所有権が滅失するに至っても売買残代金の支払債務を免れるわけではなく(民法五三四条一項)、また、売買代金を完済するときは右自動車を取得しうるとの期待権を有していたものというべきであるから、右買主は、第三者の不法行為後において売主に対して売買残代金の支払をし、代金を完済するに至ったときには、本来右期待権がその内容のとおり現実化し右自動車の所有権を取得しうる立場にあったものであるから、民法五三六条二項ただし書及び三〇四条の類推適用により、売主が右自動車の所有権の変形物として取得した第三者に対する損害賠償請求権及びこれについての不法行為の日からの民法所定の遅延損害金を当然に取得するものと解するのが相当である。

なお、東京第一事件第一審原告らの車両損害の主張には、右のような取得原因による損害賠償請求権の主張も含まれているものと解される。

2  積荷損害

東京第一事件第一審原告らが貨物運送業者であることは前記のとおりであり、また、本件事故当時同原告らの被害車両に積載されていた積荷がいずれも荷主から委託されて運送中であったことは後記のとおりである。

東京第一事件第一審原告らは、右積荷が本件事故により焼毀したため、荷主に対し運送契約上の債務不履行となり、積荷価格相当の損害賠償義務を負うに至り、このことにより第一審被告に対し、右同額の損害賠償請求権を取得したとし、また、荷主に対し、積荷相当の損害賠償をした同原告らについては、民法四二二条の規定に基づき荷主が第一審被告に対して取得した損害賠償請求権を代位取得したとして、積荷損害についての賠償を第一審被告に対して請求しているものと解される。

ところで、運送中に運送品の滅失、毀損等の損害が生じた場合、運送人が荷送人に対して、どのような責任要件のもとにどの範囲の損害を賠償すべきかは、その運送契約において定められるのが通常であるが、本件においては、東京第一事件第一審原告らと荷送人たる荷主との間の運送契約の具体的内容が明らかにされていないから、商法の規定によって定めるべきものとなるが、同法五七七条の規定によると、運送人は、自己若しくは運送取扱人又はその使用人その他運送のために使用した者が運送品の受取、引渡、保管及び運送につき注意を怠らなかったことを証明したときには、運送品の滅失又は毀損によって生じた損害の賠償責任を免れることができるとされているところ、既に認定した本件延焼火災の原因・状況に関する事実関係に鑑みると、同原告らは、その各被害車両に積載していた積荷が本件延焼火災によって焼毀したため荷主に生じた損害について、右商法の規定する免責を主張して、運送契約上の債務不履行責任を免れることができるものと認められる。もっとも、同原告らのうち、荷主に対し、運送契約上の債務不履行責任を負うに至ったことを前提として、積荷に生じた損害の全部又は一部につき現実に賠償をした者については、その賠償額の限度において、荷主が第一審被告に対して取得した国賠法二条一項に基づく損害賠償請求権を民法四二二条に基づき代位取得することができるものと解するのが相当である。

東京第一事件第一審原告らは、運送人である同原告らが荷主に対して商法の前記規定による免責を主張するのは実際上不可能なことであり、荷主が第一審被告に対して損害賠償を請求しないことを前提にして、同原告らが荷主に積荷損害を賠償することを約束しているから、これを同原告ら自身の損害とみるべきであると主張するが、右支払約束をしたのみでこれを現実の損害と認めることはできない。

右説示のとおり、東京第一事件第一審原告らのうち、その被害車両に積載していた積荷に生じた損害につき荷主に対して既にその全部又は一部の賠償をした者を除くその余の同原告らの請求は、いずれも理由がないというべきである。

3  休車損害

いわゆる休車損害は、基本的には車両を稼働させれば取得したであろう利益及び休車している間にも支払を免れることのできなかった経費の合計額をいうものであり、当該第一審原告の事故発生の年を含む複数の年度にわたる営業関係資料及び会計帳簿等に基づき具体的に算定すべきであるのが本則であるが、多数の車両のうち一台ないし二台のみが休車した場合には、これによって具体的に算定するのは実際上困難であること、休車損害は比較的短期間に発生するものであり金額も他の損害と比較すれば低額なものであること等を考慮すると、信頼できる統計資料等に基づいて控え目に算定する限り、当該第一審原告の企業規模、営業形態、車両の保有台数の多寡にかかわりなく、一律な額を休車損害として算定することも許されるものというべきである。

<書証番号略>、原審(東京)における東京第一事件第一審原告やよい運送代表者田辺僖勝の供述及び弁論の全趣旨によれば、東京第一事件第一審原告らの被害車両は本件事故により焼毀したため代替車を取得するまでの間被害車両相当分についての稼働ができなかったこと、右再取得所要期間は一か月を下回らなかったこと、昭和五三年度における一般区域貨物自動車運送事業(区域トラック用)の貨物自動車の平均実働率は69.44パーセント、平均実車率は66.75パーセントであったこと、一日一台当たりの平均走行距離は二〇〇キロメートルであったこと、走行距離一キロメートル当たりでは、営業収益が225.07円、営業費が215.91円で営業利益が9.16円であったこと、右営業費の内訳は運送費194.61円及び一般管理費21.30円であり、右運送費の内訳は人件費83.74円、燃料費17.58円、修繕費11.84円、固定資産償却費13.07円、保険料3.53円、施設使用料3.54円、施設賦課税2.22円及びその他運送費59.09円であったことを認めることができる。

そして、右認定の統計数値を用いて算定すると、車両を稼働させれば取得したであろう利益は右営業利益9.16円であり、休車している間にも支払を免れることのできなかった経費としては一般管理費21.30円の全額、運送費のうち固定資産償却費13.07円、保険料3.53円、施設使用料3.54円及び施設賦課税2.22円の全額、人件費83.74円については貨物自動車の平均実働率が69.44パーセントであり相当部分を他に転嫁させることができるはずであるからその半額の41.87円、その他運送費59.09円については休車期間中は支払を免れる部分が相当あるはずであるからその約半額の29.55円を合計した115.08円を考え、総合計124.24円に一日当たりの平均走行距離二〇〇キロメートルを乗じ、その三〇日分を算出すると、七四万五四四〇円となる。

しかしながら、右に算出した金額はあくまでも統計上の平均値を用いた観念的なものであって、<書証番号略>によれば、車両の保有台数が五〇台未満の場合には前記認定の走行一キロメートル当たりの営業収益、営業費及び営業利益が右算定に用いた金額に達しておらず、また、右算定そのものが各第一審原告の企業規模、営業形態、車両の保有台数の多寡等を一切捨象しているものであるから、右金額の全額を各第一審原告の被害車両一台毎に休車損害として認めるのは相当ではないと考えられ、休車損害としては被害車両一台毎に前示金額の約六割である四五万円を一律に認めることとする。各第一審原告については、後記の個別的認定の際にその結論のみを示す。

4  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、第一審原告らは、本件事故に基づく損害賠償請求権につき第一審被告から任意の弁済を受けられなかったため、弁護士である第一審原告ら訴訟代理人らにそれぞれ本件訴訟の提起と追行を委任し、その費用及び報酬の支払いを約束したことが認められるところ、本件訴訟の難易度、認容額、審理の経過、その他本件において認められる諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、各第一審原告につきそれぞれ後記の個別的認定のとおりと認めるのが相当である。

二第一審原告らの損害

1  東京第一事件第一審原告やよい運送

(一) 車両損害 三九〇万円

大型貨物自動車(練馬一一か三一五〇)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>、原審(東京。以下番号37まで同じ。)における同原告代表者田辺僖勝の供述及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五二年式の日産ディーゼルCD五一Vであったこと、同原告が同年四月二〇日訴外日産ディーゼル東京販売株式会社から代金七四四万八七九一円、これを同年八月から昭和五四年一一月まで二四回の月賦で支払う、代金完済まで売主が所有権を留保するとの約定で買い受け、右約定のころ各月賦代金の支払を了したこと及び右自動車の本件事故当時の時価は三九〇万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 積荷損害

三九八万六〇〇〇円

<書証番号略>、同原告代表者田辺僖勝の供述及び弁論の全趣旨によれば、右自動車には訴外ライオンサービス株式会社から運送を委託された練歯磨き一〇万本(約一〇トン)を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として右訴外会社に対し、昭和五四年八月一日三三万円、同月三一日三三万円、同年九月二九日三三万円、同年一〇月三一日三三万円、同年一一月三〇日三三万円、同年一二月二九日三三万円、昭和五五年一月三一日三三万円、同年二月二九日三三万円、同年三月三一日三三万円、同年四月三〇日三三万円、同年五月三一日三三万円及び同年六月三〇日三五万六〇〇〇円、以上合計三九八万六〇〇〇円を支払ったことが認められる。

(三) 休車損害 四五万円

(四) 弁護士費用 八〇万円

2  東京第一事件第一審原告隅田川運送

(一) 車両損害 四五五万円

大型貨物自動車(習志野一一を三四七〇)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五三年式の三菱FU一一三Sであったこと、同原告が右自動車を昭和五三年七月代金六五〇万円で買い受けて本件事故当時所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は四五五万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 積荷損害 〇円

<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車には訴外井住運送株式会社から運送を委託された黄銅棒四六二本(約10.0185トン)を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷につき右訴外会社から合計一二四万二二九四円の賠償請求を受けたことが認められるが、同原告がその全部又は一部の支払をした事実はこれを認めるに足りる証拠がない。

(三) 休車損害 四五万円

(四) 弁護士費用 五〇万円

3  東京第一事件第一審原告峯岸運送

(一) 車両損害 二〇〇万円

大型貨物自動車(熊谷一一か一二〇八)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五〇年式の日産ディーゼルCD五〇Vであったこと、右自動車と同一車種・年式・型の自動車の本件事故当時の一般的な中古車価格は二五〇万円程度であったこと及び同原告が昭和五三年二月に右自動車を代金二七五万円で買い受けて本件事故当時所有していたことが認められ、右自動車の本件事故当時の時価は二〇〇万円を下回らなかったと推認される。

(二) 積荷損害 〇円

<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車には訴外アサヒゴム株式会社から運送を委託された自動車部品(約9.5トン)を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと、右積荷の賠償に関して、同原告と右訴外会社との間で昭和五四年九月三〇日損害額を合計二〇二万〇二三九円とし、そのうち一二〇万円を同原告が支払うこととし残余は本訴の決着を待って協議する旨の合意がされたことが認められるが、同原告がその全部又は一部の支払をした事実はこれを認めるに足りる証拠がない。

(三) 休車損害 四五万円

(四) 弁護士費用 二〇万円

4  東京第一事件第一審原告日発運輸

(一) 車両損害 三〇〇万円

大型貨物自動車(横浜一一か九六〇九)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五一年式の日産ディーゼルCD四三Vであったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は三〇〇万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 積荷損害

二二四万九四〇〇円

<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車には訴外日本発条株式会社から運送を委託された自動車用シートスプリング及びパレットを積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として昭和五五年一月三一日右訴外会社に対し合計二二四万九四〇〇円を支払ったことが認められる。

(三) 休車損害 四五万円

(四) 弁護士費用 五五万円

5  東京第一事件第一審原告小碇運輸

(一) 車両損害 二八〇万円

大型貨物自動車(横浜一一か九七八四)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五一年式のいすずSPM六五〇であったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は二八〇万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 休車損害 四五万円

(三) 弁護士費用 三〇万円

6  東京第一事件第一審原告五十嵐運輸

(一) 車両損害 一五〇万円

大型貨物自動車(品川一一か五一六一)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和四九年式のいすずSPK七一〇であったこと、同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は一五〇万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 積荷損害

三一〇万六二一四円

<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車には訴外日本グッドイヤー株式会社から運送を委託されたタイヤ等を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として右訴外会社に対し昭和五四年九月一七日八〇万円、同年一〇月一六日八〇万円、同年一一月一六日八〇万円及び同年一二月一七日七〇万六二一四円、以上合計三一〇万六二一四円を支払ったことが認められる。

(三) 休車損害 四五万円

(四) 弁護士費用 五〇万円

7  東京第一事件第一審原告富士中央運送

(一) 車両損害 二五〇万円

大型貨物自動車(沼津一一く二一四)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五〇年式の日産ディーゼルCD五〇Vであったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は二五〇万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 積荷損害 〇円

<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車には訴外山川工業株式会社から同山川運送株式会社を通して運送を委託されたガスボンベ八四本を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同山川運送株式会社が同山川工業株式会社に対し合計一七六万四〇〇〇円を支払ったことが認められるが、同原告がその全部又は一部の支払をした事実はこれを認めるに足りる証拠がない。

(三) 休車損害 四五万円

(四) 弁護士費用 二五万円

8  東京第一事件第一審原告浜北トランスポート

(一) 車両損害 三九〇万円

大型貨物自動車(浜松一一か二〇八三)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五二年式の日産ディーゼルCD五一Vであったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は三九〇万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 休車損害 四五万円

(三) 弁護士費用 四〇万円

9  東京第一事件第一審原告幸伸運輸倉庫

(一) 車両損害 六〇〇万円

大型貨物自動車(浜松一一か二八〇〇)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五四年式の日野TC三八三であったこと、同原告が同年三月二〇日訴外静岡日野自動車株式会社から代金六四六万〇五七〇円(うち車両代金五二〇万円)、これを同年五月から昭和五六年一〇月まで三〇回の月賦で支払う、代金完済まで売主が所有権を留保するとの約定で買い受け、右約定のころ各月賦代金の支払を了したこと、右代金のほかに右自動車の架装費用として一三四万一一七五円を支払ったことが認められ、右自動車の本件事故当時の時価は六〇〇万円を下回らなかったと推認される。

(二) 休車損害 四五万円

(三) 弁護士費用 六〇万円

10  東京第一事件第一審原告浜松輸送センター

(一) 車両損害 一八五万円

大型貨物自動車(浜松一一き二八六二)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五三年式の日野KL五四五であったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は一八五万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 休車損害 四五万円

(三) 弁護士費用 二〇万円

11  東京第一事件第一審原告日急

(一) 車両損害 一一〇万円

大型貨物自動車(名古屋一一い五四九八)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五一年式の日野KL五六〇であったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は一一〇万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 積荷損害

一八三万五九〇〇円

<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車には訴外東海TRW株式会社から運送を委託された自動車用部品のプラグチャージ約四トンを積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として昭和五四年一〇月二二日に右訴外会社に対し合計一八三万五九〇〇円を支払ったことが認められる。

(三) 休車損害 四五万円

(四) 弁護士費用 三〇万円

12  東京第一事件第一審原告豊田陸運

(一) 車両損害 六七〇万円

(1) 大型貨物自動車(三河一一う五六三五)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五二年式の日野TC三八三であったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は三〇〇万円を下回らなかったことが認められる。

(2) 大型貨物自動車(三河一一う六三〇四)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五三年式の日野TC三八三であったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は三七〇万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 積荷損害 〇円

(1) <書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右(一)(1)の自動車には訴外トヨタ自動車工業株式会社から運送を委託された鉄製空容器三一個を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び右積荷の本件事故当時の価額は一五五万円を下回らなかったことが認められるが、同原告がその全部又は一部の支払をした事実はこれを認めるに足りる証拠がない。

(2) <書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右(一)(2)の自動車には右訴外会社から運送を委託された鉄製空容器二一個を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び右積荷の本件事故当時の価額は一〇五万円を下回らなかったことが認められるが、同原告がその全部又は一部の支払をした事実はこれを認めるに足りる証拠がない。

(三) 休車損害 九〇万円

(四) 弁護士費用 七五万円

13  東京第一事件第一審原告東洋陸運

(一) 車両損害 一七〇万円

大型貨物自動車(足立一一き六五二七)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五〇年式の三菱FT一一二Uであったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は一七〇万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 積荷損害

二一九万五五九七円

<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車には訴外日新製糖株式会社から運送を委託されたグラニュー糖10.8トン及びパレットを積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として右訴外会社に対し昭和五四年九月二〇日一一八万七三一四円及び同年一〇月二〇日一〇〇万八二八三円、以上合計二一九万五五九七円を支払ったことが認められる。

(三) 休車損害 四五万円

(四) 弁護士費用 四〇万円

14  東京第一事件第一審原告東礪運輸

(一) 車両損害 一四五万円

大型貨物自動車(福井一一か八七九)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和四九年式の日野KF三六〇であったこと、同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は一四五万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 積荷損害 二四〇万円

<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車には訴外東レ株式会社から運送を委託されたポリエステル糸約九四七七キログラム等を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として昭和五四年九月三〇日右訴外会社に対して二四〇万円を支払ったことが認められる。

(三) 休車損害 四五万円

(四) 弁護士費用 四〇万円

15  東京第一事件第一審原告愛知陸運

(一) 車両損害 九〇〇万円

(1) 大型貨物自動車(沼津一く一三三三)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五四年式の日野TC三八三であったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと、右自動車は訴外愛知日野自動車株式会社から同年三月に五六七万円で購入したこと及びその架装費用に四二万九〇〇〇円を要したことが認められ、本件事故当時の時価は五三〇万円を下回らなかったと推認される。

(2) 大型貨物自動車(名古屋一一き五二九五)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五三年式の日野TC三八三であったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は三七〇万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 休車損害 九〇万円

(三) 弁護士費用 九五万円

16  東京第一事件第一審原告ポッカライン

(一) 車両損害 四二〇万円

大型貨物自動車(名古屋一一き五八〇七)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五三年式の日産ディーゼルCD四三Vであったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は四二〇万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 積荷損害 〇円

<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車には訴外ポッカレモン株式会社から運送を委託された缶入清涼飲料水約三万三〇〇〇本を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として右訴外会社から合計二七〇万六〇〇〇円の賠償請求を受けたことが認められるが、同原告がその全部又は一部の支払をした事実はこれを認めるに足りる証拠がない。

(三) 休車損害 四五万円

(四) 弁護士費用 四五万円

17  東京第一事件第一審原告柴田自動車

(一) 車両損害 七五万円

大型貨物自動車(名古屋一一い三五六五)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五〇年式の日野KL三六〇であったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は七五万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 休車損害 四五万円

(三) 弁護士費用 一〇万円

18  東京第一事件第一審原告刈谷通運

(一) 車両損害 四三〇万円

(1) 大型貨物自動車(三河一一う五一〇〇)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五二年式の日野TC三八三であったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は三〇〇万円を下回らなかったことが認められる。

(2) 大型貨物自動車(三河一一か五〇八二)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五二年式の日野KL三六〇であったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は一三〇万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 積荷損害 六六万七二九五円

<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右(一)(2)の自動車には訴外株式会社三國製作所から運送を委託された自動車部品を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として昭和五五年二月二八日右訴外会社に対し合計六六万七二九五円を支払ったことが認められる。

(三) 休車損害 九〇万円

(四) 弁護士費用 五五万円

19  東京第一事件第一審原告中部運輸

(一) 車両損害 四二〇万円

大型貨物自動車(三 一一か五四〇七)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五三年式の日産ディーゼルCD四三Vであったこと、同原告が同年七月訴外中部日産ディーゼル株式会社から右自動車を含む二台の自動車を代金合計一三三九万六七四五円、これを昭和五四年七月から昭和五六年六月まで二四回の月賦で支払う、代金完済まで売主が所有権を留保するとの約定で買い受け、右約定のころ各月賦代金の支払を了したこと及び右自動車の本件事故当時の時価は四二〇万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 休車損害 四五万円

(三) 弁護士費用 四五万円

20  東京第一事件第一審原告南勢運輸

(一) 車両損害 三六五万円

大型貨物自動車(三 一一か四四八八)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五二年式の日野KF三九一であったこと、同原告が同年七月訴外三重日野自動車株式会社から代金七〇二万七〇〇〇円、これを同年九月から昭和五四年一一月まで二七回の月賦で支払う、代金完済まで売主が所有権を留保するとの約定で買い受け、右約定のころ各月賦代金の支払を了したこと及び右自動車の本件事故当時の時価は三六五万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 積荷損害

一六四万〇四〇〇円

<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車には訴外横浜ゴム株式会社から運送を委託された合成ゴム約一万〇九三六キログラムを積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として昭和五五年五月一〇日右訴外会社に対し合計一六四万〇四〇〇円を支払ったことが認められる。

(三) 休車損害 四五万円

(四) 弁護士費用 五五万円

21  東京第一事件第一審原告北勢運送

(一) 車両損害 九〇万円

大型貨物自動車(神戸一一あ八一四六)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五〇年式の日野KL五四一であったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は九〇万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 積荷損害

九〇万四二〇〇円

<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車には訴外株式会社東洋ベアリング磐田製作所から運送を委託された自動車部品を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として昭和五四年九月二〇日右訴外会社に対し合計九〇万四二〇〇円を支払ったことが認められる。

(三) 休車損害 四五万円

(四) 弁護士費用 二〇万円

22  東京第一事件第一審原告フットワークエクスプレス

(一) 車両損害 二八〇万円

(1) 大型貨物自動車(名古屋一一か六六二六)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和四八年式の三菱T九五一Tであったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の新車価格は四五〇万円であったことが認められ、右自動車の本件事故当時の時価は八〇万円を下回らないものであったと推認される。

(2) 大型貨物自動車(三河一一か五〇一二)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五三年式の三菱FM二一五Jであったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は二〇〇万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 積荷損害

一八三万〇六四二円

(1) <書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右(一)(1)の自動車には訴外日本理化製紙株式会社から運送を委託されたPE食品用紙約一〇万一八三〇メートルを積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として昭和五四年一〇月二五日右訴外会社に対し合計一四三万三七六七円を支払ったことが認められる。

(2) <書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右(一)(2)の自動車には訴外油化バーディッシェ株式会社から運送を委託されたコンテナ四基を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として昭和五四年一一月三〇日右訴外会社に対し合計三九万六八七五円を支払ったことが認められる。

(三) 休車損害 九〇万円

(四) 弁護士費用 五五万円

23  東京第一事件第一審原告山一運送

(一) 車両損害 五〇万円

大型貨物自動車(神戸一一あ三八〇二)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和四八年式の三菱T六五三Eであったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと、右自動車の新車価格は一六四万円であったこと及び昭和四九年式の同型車(新車価格二〇一万円)の昭和五三年七月から八月の間の中古価格が八〇万円を下回らなかったことが認められ、右自動車の本件事故当時の時価は五〇万円を下回らなかったと推認される。

(二) 休車損害 四五万円

(三) 弁護士費用 五万円

24  東京第一事件第一審原告丸水運輸

(一) 車両損害 一二三五万円

(1) 大型特殊自動車(神戸八八か二三二五)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五三年式の日野KF七八六であったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと、右自動車と同年式・同型の通常のものの新車価格は六五八万円であったが、右自動車は昭和五三年一〇月に冷凍車用に架装して合計一一〇五万円で購入したことが認められ、右自動車の本件事故当時の時価は一〇〇〇万円を下回らなかったと推認される。

(2) 大型貨物自動車(神戸一一か七〇〇九)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五〇年式の日野KF七八二であったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は二三五万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 積荷損害

五五二万二一四〇円

<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右(一)の各自動車には訴外東京魚市場発送株式会社及び同永井株式会社から運送を委託された鮮魚を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと、右積荷の賠償として昭和五四年一二月六日東京魚市場発送株式会社に対し合計九九三万六六六九円を、永井株式会社に対し合計一〇四万四二八〇円をそれぞれ支払う旨の示談が成立し、同月一九日に東京魚市場発送株式会社に対し五〇〇万円を、永井株式会社に対し五二万二一四〇円をそれぞれ支払ったことが認められる。しかし、同原告が右以上の支払をした事実はこれを認めるに足りる証拠がない。

(三) 休車損害 九〇万円

(四) 弁護士費用 一八〇万円

25  東京第一事件第一審原告今津陸運

(一) 車両損害 六三〇万円

大型貨物自動車(神戸一一き一一八)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五四年式の日野KF七八六であったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の新車価格は六五八万円であったことが認められ、右自動車の本件事故当時の時価は六三〇万円を下回らなかったと推認される。

(二) 積荷損害

一〇〇万三八〇〇円

<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車には訴外吉原製油株式会社から運送を委託された豆腐用五徳豆約10.5トンを積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと、右積荷の賠償として昭和五四年一二月二五日右訴外会社に対し合計一〇〇万三八〇〇円を支払ったことが認められる。

(三) 休車損害 四五万円

(四) 弁護士費用 七五万円

26  東京第一事件第一審原告梅田ラインズ

(一) 車両損害 三三五万円

大型貨物自動車(大阪一一い四一七六)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五三年式の三菱FT一一二Sであったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は三三五万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 休車損害 四五万円

(三) 弁護士費用 三五万円

27  東京第一事件第一審原告山野運輸倉庫

(一) 車両損害 三五五万円

大型貨物自動車(泉一一か五四七八)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五二年式の三菱FU一一九Sであったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は三五五万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 積荷損害 〇円

右自動車に<書証番号略>記載の銅屑が積載されており、右銅屑が本件事故により焼毀したことを認めるに足りる証拠はない。<書証番号略>に記載の銅屑については、出荷月日が七月二四日、トラック番号が泉一一か四一〇四となっており、本件事故との関連を認めることができない。

(三) 休車損害 四五万円

(四) 弁護士費用 四〇万円

28  東京第一事件第一審原告丸松運送

(一) 積荷損害

一七一万六〇〇〇円

大型貨物自動車(大阪一一あ九七二二)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>によれば、右自動車には訴外東亜ペイント株式会社から運送を委託されたトアクレタイルマウントベース約一〇トン等を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として右訴外会社から合計二二〇万六〇〇〇円の賠償請求を受けて昭和五四年八月三一日五三万三〇〇〇円、同年九月二九日五〇万円及び同年一〇月三一日六八万三〇〇〇円合計一七一万六〇〇〇円を支払ったことが認められる。

(二) 休車損害 四五万円

(三) 弁護士費用 二〇万円

29  東京第一事件第一審原告山陽自動車運送

(一) 車両損害 一七〇万円

(1) 大型貨物自動車(大阪一一あ六四一三)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和四八年式の日野KF三六〇であったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと、右自動車と同型で昭和四九年式のものの本件事故当時の時価は一四五万円、昭和五〇年式のものは二〇五万円であったこと、同原告が昭和五四年六月に右自動車に架装費用として三一万七〇五〇円を費やしたことが認められ、右自動車の本件事故当時の時価は一二〇万円を下回らなかったと推認される。

(2) 大型貨物自動車(大阪一い一一三九)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和四五年式の日野TC七四〇であったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと、右自動車の新車価格は三六五万円であったこと、右自動車と同型で昭和四九年式のものの本件事故当時の時価は一四五万円であったこと及び同原告が昭和五二年一一月に右自動車に架装費用として六〇万九〇〇〇円を費やしたことが認められ、右自動車の本件事故当時の時価は五〇万円を下回らなかったと推認される。

(二) 休車損害 九〇万円

(三) 弁護士費用 二五万円

30  東京第一事件第一審原告曽爾運送

(一) 車両損害 三一五万円

大型貨物自動車(奈一一か八四六)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五一年式の日野KF七八三であったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は三一五万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 積荷損害 〇円

<書証番号略>によれば、右自動車には訴外飛鳥木材株式会社から運送を委託された木材を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として右訴外会社から合計二一〇万三〇七〇円の賠償請求を受けたことが認められるが、同原告がその全部又は一部の支払をした事実はこれを認めるに足りる証拠がない。

(三) 休車損害 四五万円

(四) 弁護士費用 三五万円

31  東京第一事件第一審原告松茂運輸

(一) 車両損害 三八〇万円

大型貨物自動車(徳一一か一九七一)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五二年式の日産ディーゼルCD五一Vであったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は同原告主張の三八〇万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 積荷損害 六五万〇一三〇円

<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車には訴外大栄運輸株式会社から運送を委託された段ボール用中芯約一〇トンを積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として昭和五四年九月二五日右訴外会社に対し合計六五万〇一三〇円を支払ったことが認められる。

(三) 休車損害 四五万円

(四) 弁護士費用 四五万円

32  東京第一事件第一審原告宝海運

(一) 車両損害 三八五万円

大型貨物自動車(徳一一か一七二七)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五二年式の日野KF七九七であったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は三八五万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 積荷損害 〇円

<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車には訴外大塚倉庫株式会社から運送を委託された清涼飲料水用空瓶を積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告は右積荷の賠償として右訴外会社から合計七二万円の賠償請求を受けたことが認められるが、同原告がその全部又は一部の支払をした事実はこれを認めるに足りる証拠がない。

(三) 休車損害 四五万円

(四) 弁護士費用 四〇万円

33  東京第一事件第一審原告大川陸運

(一) 車両損害 三九〇万円

大型貨物自動車(香一一か二五七七)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五二年式の日産ディーゼルCD五一Vであったこと、同原告が同年一〇月二〇日訴外日産ディーゼル東四国販売株式会社から代金八五五万円、これを同年一二月から昭和五五年五月まで三〇回の月賦で支払う、代金完済まで売主が所有権を留保するとの約定で買い受け、右約定のころ各月賦代金の支払を了したこと及び右自動車の本件事故当時の時価は三九〇万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 積荷損害 〇円

<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車には訴外大石産業株式会社から運送を委託された鶏卵輸送用容器約九一〇〇セットを積載していたこと、右積荷は本件事故により焼毀したこと及び同原告が右積荷の賠償として右訴外会社から合計九〇万円の賠償請求を受けたことが認められるが、同原告がその全部又は一部の支払をした事実はこれを認めるに足りる証拠がない。

(三) 休車損害 四五万円

(四) 弁護士費用 四〇万円

34  東京第一事件第一審原告高知通運

(一) 車両損害 四二〇万円

大型貨物自動車(高一一か二六四一)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五三年式の日産ディーゼルCD四三Vであったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は四二〇万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 休車損害 四五万円

(三) 弁護士費用 四五万円

35  東京第一事件第一審原告和気運輸

(一) 車両損害 四三〇万円

大型貨物自動車(岡一一か五九五五)が本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五三年式の三菱FU一一九Rであったこと、同原告が同年五月二〇日訴外岡山三菱ふそう自動車販売株式会社から代金六七六万五八六〇円、これを同年七月から昭和五五年六月まで二四回の月賦で支払う、代金完済まで売主が所有権を留保するとの約定で買い受け、右約定のころ各月賦代金の支払を了したこと及び右自動車の本件事故当時の時価は四三〇万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 休車損害 四五万円

(三) 弁護士費用 四五万円

36  東京第一事件第一審原告司運輸

(一) 車両損害 七一〇万円

大型貨物自動車(北九州一一か五四三八)及び大型貨物自動車(北九州一一か五八五七)がいずれも本件事故により焼毀したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、右各自動車はいずれも昭和五三年式の日産ディーゼルCV四一Vであったこと、本件事故当時同原告が右各自動車を所有していたこと及び右各自動車の本件事故当時の時価はそれぞれ三五五万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 休車損害 九〇万円

(三) 弁護士費用 八〇万円

37  東京第二事件第一審原告山下金属

(一) 車両損害 一二〇万円

小型貨物自動車(多摩四四ち一八七六)が本件事故により焼失したことは前記認定のとおりである。<書証番号略>、原審における同原告代表者山下久夫の供述及び弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五三年式の日産キャブオールクリッパーYC三四〇であったこと、本件事故当時同原告が右自動車を所有していたこと及び同原告が昭和五三年一二月に代金合計一四八万五一五〇円(うち車両価格一三四万五〇〇〇円)で購入したことが認められ、右自動車の本件事故当時の時価は一二〇万円を下回らなかったと推認される。

(二) 積荷損害

一八四万三七九二円

<書証番号略>及び原審における同原告代表者山下久夫の供述及び弁論の全趣旨によれば、右自動車には同原告が所有していた真鍮丸棒、アルミ棒等の金属材料を積載していたこと、本件事故によって右金属材料が熔解等したため商品価値を失ったこと、右金属材料の価格は合計一八四万三七九二円であったことが認められる。

38  静岡事件第一審原告ナカミセ食品

(一) 積荷損害等

七三万一九〇〇円

静岡事件<書証番号略>及び原審(静岡。以下同じ。)における同原告代表者橋ケ谷金善の供述によれば、同原告は冷凍食品の製造販売を業とする会社であるが、本件事故によってその保有する営業用の車両が焼失したので、新たな営業車の手配をするまでの間、代車を一か月程度借り受け、その代金として六万円を支払ったこと、右車両の焼失によって、それに積載されていた同原告が昭和五三年一〇月二三日に四九万円で購入した保冷庫及び静岡事件原判決別紙積荷表(一)記載の同原告の積荷(ただし、積荷に関する同原告の主張には脱漏のあることが明白であるので、同表の番号16の次に「17甘K(ホルモン焼)10K 五〇〇 五〇〇〇」を加える。)一八万一九〇〇円相当が焼失したことが認められる。

そして、焼失した車両が営業用に用いられていたこと及び新たな営業車の手配のために通常要する期間に鑑みれば、同原告の支払った代車料は、本件事故と相当因果関係のある損害というべきであり、また、焼失した保冷庫の時価は、購入して間がないことからほぼ購入価格に相当するものと推認される。

したがって、同原告の積荷損害等は、代車料六万円、積荷一八万一九〇〇円及び保冷庫代四九万円、以上合計七三万一九〇〇円となる。

(二) 弁護士費用 七万円

39  静岡事件第一審原告渥美仁一郎

(一) 車両損害 一〇八万円

普通乗用自動車(浜松五六ち七四〇一)が本件事故により焼失したことは前記認定のとおりである。静岡事件<書証番号略>及び原審における同原告本人の供述並びに弁論の全趣旨によれば、右自動車は昭和五四年式の日産ローレル型式KSC二三〇であること、同原告が同年一月、訴外東海日産モーター株式会社から代金一三五万九〇〇〇円、ローン期間二年、代金完済まで売主が所有権を留保するとの約定で買い受け、昭和五五年一二月末までに代金の支払を了したこと及び右自動車の本件事故当時の時価は一〇八万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 弁護士費用 一一万円

40  静岡事件第一審原告大石峯夫

(一) 車両損害 八四万円

普通貨物自動車(静岡五六ゆ二五七五)が本件事故により焼失したことは前記認定のとおりである。静岡事件<書証番号略>及び原審における同原告本人の供述によれば、右自動車は昭和五三年式のトヨタタウンエース型式ETR一五Gであること、同原告が同年一二月、訴外トヨタカローラ静岡株式会社から代金一〇五万五〇〇〇円、ローン期間半年、代金完済まで売主が所有権を留保するとの約定で買い受け、昭和五四年七月一一日には既に代金の支払を終えていたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は八四万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 弁護士費用 八万円

41  静岡事件第一審原告堂原勉

(一) 車両損害 七六万円

普通乗用自動車(横浜五八に五一八)が本件事故により焼失したことは前記認定のとおりである。静岡事件<書証番号略>及び原審における同原告本人の供述によれば、右自動車は昭和五三年式の日産パルサー型式EYN一〇であること、同原告が同年一〇月二九日ころ、訴外日産チェリー神奈川販売株式会社から代金九五万六〇〇〇円、ローン期間二年間、代金完済まで売主が所有権を留保するとの約定で買い受け、昭和五五年一二月末までに代金の支払を了したこと及び右自動車の本件事故当時の時価は七六万円を下回らなかったことが認められる。

(二) その他の物品損害

三万五八〇〇円

静岡事件<書証番号略>及び原審における同原告本人の供述によれば、同原告は、焼失した右車両に昭和五四年七月三万五八〇〇円で購入したラジオカセットレコーダーを積載していたが、本件事故により焼失したことが認められ、その時価は三万五八〇〇円であると推認される。

(三) 弁護士費用 八万円

42  静岡事件第一審原告高須吉郎

(一) 車両損害 七三万円

普通乗用自動車(静岡五六り六五二〇)が本件事故により焼失したことは前記認定のとおりである。静岡事件<書証番号略>及び原審における同原告本人の供述によれば、右自動車は昭和五四年式のマツダファミリア型式EFA四TSであること、同原告が同年六月ころ、訴外静岡マツダ株式会社から代金七六万七〇〇〇円、ローン期間二年間、代金完済まで売主が所有権を留保するとの約定で買い受け、昭和五六年末までに代金の支払を了したこと及び右自動車の本件事故当時の時価は七三万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 積荷損害 四二万七〇〇〇円

静岡事件<書証番号略>及び原審における同原告の供述によれば、同原告は、個人で健康機具販売業を営んでいたものであり、本件事故によって焼失した右車両に昭和五四年七月三日から同月九日までの間に仕入れた健康機具低周波治療器(イトーレーターM1)九台(仕入価格合計二二万五〇〇〇円)、VSK―四型治療器及びその付属品一式(仕入価格合計八万四九〇五円)、イオン水器(マイオムコ)一台(仕入価格二万五八〇〇円)、ナースイオン治療器本体一台(仕入価格三万八〇〇〇円)のほか、それ以前に仕入れていたVSK―四型治療器の付属品イオンマット(仕入価格五四〇〇円)、ナースイオン治療器本体一台(仕入価格三万八〇〇〇円)及びその付属品二式(仕入価格合計一万二〇〇〇円)の仕入価格合計四二万九一〇五円相当の器具を積載していたが、本件事故により焼失したと認められ、同原告は、その請求する四二万七〇〇〇円を下回らない損害を被ったものと認められる。

(三) 弁護士費用 一二万円

43  静岡事件第一審原告知久富士雄

(一) 車両損害 一四八万円

普通貨物自動車(静岡五六り五二五六)が本件事故により焼失したことは前記認定のとおりである。静岡事件<書証番号略>及び原審における同原告本人の供述によれば、右自動車は昭和五四年式の日産キャラバン型式KRSE二〇GAであること、同原告が同年五月二二日、訴外東海日産モーター株式会社から代金一六四万二〇〇〇円、ローン期間二年間、代金完済まで売主が所有権を留保するとの約定で買い受け、昭和五六年五月までに代金の支払を了したこと及び右自動車の本件事故当時の時価は一四八万円を下回らなかったことが認められる。

(二) その他の物品損害

二四万二〇〇〇円

静岡事件<書証番号略>及び原審における同原告本人の供述によれば、焼失した右車両には、本件事故の約二か月前ころ二三万円で購入したエアコンディショナー及び一万二〇〇〇円で購入した時計が付加されており、これらも本件事故により焼失したことが認められ、その時価は二四万二〇〇〇円であったと推認される。

(三) 弁護士費用 一七万円

44  静岡事件第一審原告吉永眞

(一) 車両損害 六八万円

普通乗用自動車(神戸五六な七二)が本件事故により焼失したことは前記認定のとおりである。静岡事件<書証番号略>及び原審証人吉永良太の供述によれば、右自動車は昭和五〇年式の三菱ランサーセレステ型式A七三であること、同原告が同年九月二六日ころ、阪神三菱自動車販売株式会社からローン期間二年間、代金完済まで売主が所有権を留保するとの約定で買い受け、昭和五二年九月までに代金の支払を了したこと及び右自動車の本件事故当時の時価は六八万円を下回らなかったことが認められる(原判決は、シルバーブックにより右車種の五二年式のものの時価が六八万円であるとして、これから減額しているが、シルバーブックによると右車種の五〇年式のものの時価が六八万円となっている。)。

(二) その他の物品損害

六万四〇〇〇円

静岡事件<書証番号略>及び原審証人吉永良太の供述によれば、焼失した右車両には、本件事故の一週間前に六万四〇〇〇円で購入したアルミホイールが付加されていたが、本件事故により焼失したことが認められ、その時価は六万四〇〇〇円であったと推認される。

(三) 弁護士費用 七万円

45  静岡事件第一審原告平和家具

(一) 車両損害 六八万円

普通貨物自動車(浜松四四ろ六五三一)が本件事故により焼失したことは前記認定のとおりである。静岡事件<書証番号略>及び原審証人石川建二の供述によれば、右自動車は昭和五二年式のマツダタイタン型式EXR一五であること、同原告が同年一一月一七日ころ、訴外静岡マツダ株式会社から分割払い、代金完済まで売主が所有権を留保するとの約定で買い受け、約定どおり代金の支払を了したこと及び右自動車の本件事故当時の時価は六八万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 積荷損害 二二万円

静岡事件<書証番号略>及び原審証人石川建二の供述によれば、焼失した右車両には静岡事件原判決別紙積荷表(二)記載の家具取扱製品(その簿価合計二二万円)が積載されていたが、本件事故により焼失したこと、その時価も二二万円を下回らなかったことが認められる。

(三) 弁護士費用 九万円

46  静岡事件第一審原告小野亮

(一) 車両損害 一一五万円

普通乗用自動車(静岡五六や六六七)が本件事故により焼失したことは前記認定のとおりである。静岡事件<書証番号略>及び原審における同原告本人の供述によれば、右自動車は昭和五三年式の三菱シグマ型式EA一三三Aであること、同原告が同年八月ころ、訴外静岡三菱自動車販売株式会社から代金一六四万円、二年六か月間のローン、代金完済まで売主が所有権を留保するとの約定で買い受け、代金の支払を了したこと及び右自動車の本件事故当時の時価は一一五万円を下回らなかったことが認められる。

(二) その他の物品損害一五万円

静岡事件<書証番号略>及び原審における同原告本人の供述によれば、焼失した右車両には、昭和五三年八月二六日に代金一五万円(ただし、右車両を買い受けた際に下取りをしてもらったことに伴い相当額の値引きを受けた価格である。)で購入したエアコンディショナーが付加されていたが、本件事故により焼失したことが認められ、その時価は一五万円であったと推認される。

(三) 弁護士費用 一三万円

47  静岡事件第一審原告澤入和雄

(一) 車両損害 六九万円

普通貨物自動車(静岡四四め三六七八)が本件事故により焼失したことは前記認定のとおりである。静岡事件<書証番号略>及び原審における同原告本人の供述によれば、右自動車は昭和五三年式の日産キャラバン型式H―VSE二〇であること、同原告が同年三月ころ訴外東海日産モーター株式会社から分割払い、代金完済まで売主が所有権を留保するとの約定で買い受け、代金の支払を了したこと及び右自動車の本件事故当時の時価は六九万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 積荷損害 〇円

同原告は、右車両に静岡事件原判決別紙積荷表(三)記載の同原告所有の反物が積載されていて、本件事故により焼失したとして、その損害賠償を請求しているが、原審における同原告本人の供述によれば、右反物は呉服商を経営する同原告の母親の所有するものであり、同原告は母親の手伝いとして右反物を車両に積載して行商していたものであると認められ、右認定に反する証拠はないから、同原告の積荷損害の賠償請求は理由がない。

(三) 弁護士費用 七万円

48  静岡事件第一審原告山口道晴

(一) 車両損害 七六万円

普通乗用自動車(多摩五八す八九〇三)が本件事故により焼失したことは前記認定のとおりである。静岡事件<書証番号略>及び原審における同原告本人の供述によれば、右自動車は昭和五四年式のホンダシビック型式E―SKであること、同原告が本件事故の数日前に訴外株式会社ホンダワールド西東京から代金八四万円、分割払い、代金完済まで売主が所有権を留保するとの約定で買い受け、本件事故後に代金の支払を了したこと及び右自動車の本件事故当時の時価は七六万円を下回らなかったことが認められる。

(二) その他の物品損害 〇円

同原告は、本件事故によって焼失した右車両に付加されていたフロアマットが本件事故において焼失したとしてその損害賠償を請求するが、右事実を認めるに足りる証拠はない。

(三) 弁護士費用 八万円

49  静岡事件第一審原告柴田敏男

(一) 車両損害 七二万円

普通乗用自動車(浜松五六ち三七九九)が本件事故により焼失したことは前記認定のとおりである。静岡事件<書証番号略>及び原審における同原告本人の供述によれば、右自動車は昭和五三年式のホンダシビック型式E―SGであること、同原告が昭和五三年一一月ころ株式会社ホンダインターナショナルから代金八五万九〇〇〇円、二回払いで買い受け、本件事故前に代金の支払を終えていたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は七二万円を下回らなかったことが認められる。

(二) 弁護士費用 七万円

50  静岡事件第一審原告石川鉄工所

(一) 車両損害 四三万五〇〇〇円

普通乗用自動車(三河五六ぬ四三六五)が本件事故により焼失したことは前記認定のとおりである。静岡事件<書証番号略>及び原審における同原告代表者石川宗七の供述によれば、右自動車は昭和五〇年式の日産サニー型式B二一〇であること、同原告が昭和五〇年一〇月ころ日産サニー愛知販売株式会社から分割払い、代金完済まで売主が所有権を留保するとの約定で買い受け、本件事故前には代金の支払を終えていたこと及び右自動車の本件事故当時の時価は四三万五〇〇〇円を下回らなかったことが認められる。

(二) 弁護士費用 四万円

51  静岡事件第一審原告フクシマ

(一) 車両損害

一六三万五〇〇〇円

普通貨物自動車(三河四四ま六九〇〇)及び普通貨物自動車(三河一一に八四四七)が本件事故により焼失したことは前記認定のとおりである。静岡事件<書証番号略>及び原審における同原告代表者福嶋保の供述によれば、前者は昭和五一年式の日産セドリック型式H―V三三〇であり、同原告が昭和五一年一月ころ愛知東日産モーター株式会社から、後者は昭和五二年式のいすずエルフ型式TLD二三であり、同原告が昭和五二年ころ愛知いすず株式会社から、いずれも分割払い、代金完済まで売主が所有権を留保するとの約定で買い受け、本件事故前には代金の支払を終えていたこと及び本件事故当時の時価は前者が七九万五〇〇〇円、後者が八四万円、以上合計一六三万五〇〇〇円を下回らなかったことが認められる。

(二) 積荷損害等

二九七万九七二五円

静岡事件<書証番号略>及び原審における同原告代表者福嶋保の供述によれば、同原告は、愛知県岡崎市でディスカウントショップを経営しているものであるが、代表取締役である福嶋保及びその次男が同原告の保有する車両を連ねて運転して東京、名古屋、大阪等に出掛け、家庭用電化製品等の商品を現金で仕入れてくる形態をとっており、本件事故当日も、東京に商品を仕入れに出掛けてその帰途に本件事故に遭遇したものであり、本件事故により右車両二台が焼失し、それに積載されていた静岡事件原判決別紙積荷表(四)記載の積荷のうち、番号1ないし138の積荷商品(仕入れ代金二八九万五七二五円)が焼失したこと、同原告は、保有車両を焼失したため、仕入れのために東京へ行くのに二泊三日及び一泊二日の二回代車を借り入れ、その代金として八万四〇〇〇円を支払ったことが認められる。

なお、原審における同原告代表者の供述中には、右焼失車両には現金八三万円を入れていたが、本件事故により焼失したとする部分があり、同原告の仕入れの形態に照らすと、仕入れに出掛けた帰途でもなお現金を所持していたと推測するに難くないけれども、その額については帳簿等の書証の裏付けがなく、右供述のみではその認定をすることはできない。

したがって、同原告の積荷損害等は、積荷二八九万五七二五円及び代車料八万四〇〇〇円、以上合計二九七万九七二五円となる。

(三) 弁護士費用 四六万円

第四結論

一以上のとおりであるから、東京第一事件第一審原告らの請求は、(一) 同事件第一審原告東礪運輸及び同丸水運輸を除くその余の同事件第一審原告らにつき、東京事件原判決別紙第一事件原告別認容金額一覧表の認容金額欄記載の各損害金並びに遅延損害金欄記載のとおり各自の車両損害及び休車損害に対する本件事故の日である昭和五四年七月一一日から、積荷損害に対する荷主の損害賠償請求権の代位取得日から各支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、(二) 同事件第一審原告東礪運輸につき、損害金四七〇万円並びに車両損害及び休車損害一九〇万円に対する本件事故の日である昭和五四年七月一一日から、積荷損害二四〇万円に対する荷主の損害賠償請求権の代位取得日である同年九月三〇日から各支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、(三) 同事件第一審原告丸水運輸につき、損害金二〇五七万二一四〇円並びに車両損害及び休車損害一三二五万円に対する本件事故の日である昭和五四年七月一一日から、積荷損害五五二万二一四〇円に対する荷主の損害賠償請求権の代位取得日である同年一二月一九日から各支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、いずれも理由があるが、その余は理由がなく、

二東京第二事件第一審原告の請求は、損害金三〇四万三七九二円及びこれに対する本件事故の日の後である昭和六一年五月一日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がなく、

三静岡事件第一審原告らの請求は、(一) 同事件第一審原告ナカミセ食品及び同吉永眞を除くその余の同事件第一審原告らにつき、静岡事件原判決別紙認容額一覧表の認容金額欄記載の各損害金及びこれに対する本件事故の日の後である昭和五四年七月一二日から各支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、(二) 同事件第一審原告ナカミセ食品につき、損害金八〇万一九〇〇円及びこれに対する本件事故の日の後である昭和五四年七月一二日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、(三) 同事件第一審原告吉永眞につき、損害金八一万四〇〇〇円及びこれに対する本件事故の日の後である昭和五四年七月一二日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、いずれも理由があるが、その余は理由がない。

四よって、東京事件原判決及び静岡事件原判決のうち以上と異なる部分を変更し、第一審被告の各控訴、東京第一事件第一審原告らのその余の附帯控訴及び静岡事件第一審原告らのその余の控訴をいずれも棄却し、なお、第一審被告の仮執行宣言に基づく給付の返還及び損害賠償を求める申立ては、第一審被告の本件控訴が認容されないことを解除条件とするものであるから、これについては判断を示さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官佐藤繁 裁判官岩井俊 裁判官坂井満は転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官佐藤繁)

別紙

目録(一)

原告番号

原告名

内金

利息期間

支払利息

利息加算額

弁護士費用

個別支払

総額

1

やよい運送株式会社

4,350,000

3,895

2,320,993

6,670,993

800,000

13,480,882

330,000

3,874

175,126

505,126

330,000

3,844

173,769

503,769

330,000

3,815

172,458

502,458

330,000

3,783

171,012

501,012

330,000

3,753

169,656

499,656

330,000

3,724

168,345

498,345

330,000

3,691

166,853

496,853

330,000

3,662

165,542

495,542

330,000

3,632

164,186

494,186

330,000

3,602

162,830

492,830

330,000

3,571

161,428

491,428

356,000

3,541

172,684

528,684

2

隅田川運送株式会杜

5,000,000

3,895

2,667,808

7,667,808

500,000

8,167,808

3

峯岸運送有限会杜

2,450,000

3,895

1,307,226

3,757,226

200,000

3,957,226

4

日発運輸株式会社

3,450,000

3,895

1,840,787

5,290,787

550,000

9,227,520

2,249,400

3,691

1,137,333

3,386,733

5

有限会社小碇運輸

3,250,000

3,895

1,734,075

4,984,075

300,000

5,284,075

6

五十嵐運輸株式会社

1,950,000

3,895

1,040,445

2,990,445

500,000

8,206,522

800,000

3,827

419,397

1,219,397

800,000

3,798

416,219

1,216,219

800,000

3,767

412,821

1,212,821

706,214

3,736

361,426

1,067,640

7

有限会社富士中央運送

2,950,000

3,895

1,574,006

4,524,006

250,000

4,774,006

8

浜北トランスポート株式会社

4,350,000

3,895

2,320,993

6,670,993

400,000

7,070,993

9

幸伸運輸倉庫株式会杜

6,450,000

3,895

3,441,472

9,891,472

600,000

10,491,472

10

協業組合浜松輸送センター

2,300,000

3,895

1,227,191

3,527,191

200,000

3,727,191

11

日急株式会社

1,550,000

3,895

827,020

2,377,020

300,000

5,466,582

1,835,900

3,792

953,662

2,789,562

12

豊田陸運株式会社

7,600,000

3,895

4,055,068

11,655,068

750,000

12,405,068

13

東洋陸運株式会社

2,150,000

3,895

1,147,157

3,297,157

400,000

7,038,741

1,187,314

3,824

621,957

1,809,271

1,008,283

3,794

524,030

1,532,313

14

東礪運輸株式会社

1,900,000

3,895

1,013,767

2,913,767

150,000

3,063,767

15

愛知陸運株式会社

9,900,000

3,895

5,282,260

15,182,260

950,000

16,132,260

16

株式会社ポッカライン

4,650,000

3,895

2,481,061

7,131,061

450,000

7,581,061

17

株式会社柴田自動車

1,200,000

3,895

640,273

1,840,273

100,000

1,940,273

18

刈谷通運株式会社

5,200,000

3,895

2,774,520

7,974,520

550,000

9,526,650

667,295

3,663

334,835

1,002,130

19

中部運輸株式会社

4,650,000

3,895

2,481,061

7,131,061

450,000

7,581,061

20

南勢運輸有限会社

4,100,000

3,895

2,187,602

6,287,602

550,000

9,285,168

1,640,400

3,592

807,166

2,447,566

21

北勢運送株式会社

1,350,000

3,895

720,308

2,070,308

200,000

3,648,160

904,200

3,824

473,652

1,377,852

22

フットワーク

エクスプレス株式会社

3,700,000

3,895

1,974,178

5,674,178

550,000

9,003,040

1,433,767

3,789

744,183

2,177,950

396,875

3,753

204,037

600,912

23

有限会杜山一運送

950,000

3,895

506,883

1,456,883

50,000

1,506,883

24

丸水運輸株式会杜

13,250,000

3,895

7,069,691

20,319,691

1,300,000

21,619,691

25

今津陸運株式会社

6,750,000

3,895

3,601,541

10,351,541

750,000

12,617,966

1,003,800

3,728

512,625

1,516,425

26

梅田ラインズ株式会社

3,800,000

3,895

2,027,534

5,827,534

350,000

6,177,534

27

山野運輸倉庫株式会杜

4,000,000

3,895

2,134,246

6,134,246

400,000

6,534,246

28

丸松運送株式会社

450,000

3,895

240,102

690,102

200,000

3,502,010

533,000

3,844

280,664

813,664

500,000

3,815

261,301

761,301

683,000

3,783

353,943

1,036,943

29

山陽自動車運送株式会杜

2,600,000

3,895

1,387,260

3,987,260

250,000

4,237,260

30

曽爾運送株式会杜

3,600,000

3,895

1,920,821

5,520,821

350,000

5,870,821

31

松茂運輸株式会社

4,250,000

3,895

2,267,636

6,517,636

450,000

7,957,881

650,130

3,819

340,115

990,245

32

宝海運株式会社

4,300,000

3,895

2,294,315

6,594,315

400,000

6,994,315

33

大川陸運株式会社

4,350,000

3,895

2,320,993

6,670,993

400,000

7,070,993

34

高知通運株式会社

4,650,000

3,895

2,481,061

7,131,061

450,000

7,581,061

35

和気運輸有限会社

4,750,000

3,895

2,534,417

7,284,417

450,000

7,734,417

36

司運輸株式会社

8,000,000

3,895

4,268,493

12,268,493

800,000

13,068,493

合計額

171,935,578

91,297,519

263,233,097

16,300,000

279,533,097

別紙

目録(二)

原告番号

原告名

内金

利息期間

支払利息

利息加算額

弁護士費用

個別支払

総額

山下金属株式会社

3,043,792

1,411

588,327

3,632,119

0

3,632,119

別紙

目録(三)

原告番号

原告名

内金

弁護士費用

小計

利息期間

支払利息

個別支払

総額

1

ナカミセ食品株式会社

726,900

70,000

796,900

4,570

498,881

1,295,781

2

渥美仁一郎

1,080,000

110,000

1,190,000

4,570

744,972

1,934,972

3

大石峯夫

840,000

80,000

920,000

4,570

575,945

1,495,945

4

堂原勉

795,800

80,000

875,800

4,570

548,274

1,424,074

5

高須吉郎

1,157,000

120,000

1,277,000

4,570

799,436

2,076,436

6

知久富士雄

1,722,000

170,000

1,892,000

4,570

1,184,443

3,076,443

7

吉永眞

544,000

50,000

594,000

4,570

371,860

965,860

8

有限会社平和家具

900,000

90,000

990,000

4,570

619,767

1,609,767

9

小野亮

1,300,000

130,000

1,430,000

4,570

895,219

2,325,219

10

澤入和雄

690,000

70,000

760,000

4,570

475,780

1,235,780

11

山口道晴

760,000

80,000

840,000

4,570

525,863

1,365,863

12

柴田敏男

720,000

70,000

790,000

4,570

494,561

1,284,561

13

株式会社石川鉄工所

435,000

40,000

475,000

4,570

297,363

772,363

14

株式会社フクシマ

4,614,725

460,000

5,074,725

4,570

3,176,916

8,251,641

合計額

16,285,425

1,620,000

17,905,425

11,209,280

29,114,705

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